慶應義塾大学アート・センター Keio University Art Center

【FromHome】-07 6月1日:「テートからのメッセージ」桐島美帆(2020/5/7)

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慶應義塾大学アート・センターは、展覧会活動やアーカイヴの公開を行ってきました。キャンパスに隣接しながら門の外にあるという場所も含め、小さいながらも外に向かって開かれている学校の小窓的存在と言えます。
新型コロナウイルス感染拡大の影響下、展覧会やアーカイヴの公開を出来ない状況が続いていますが、スタッフはリモートで仕事を続け、アート・センターは活動しています。その中で、現状下における芸術や研究、自分たちの活動や生活について様々に考えを巡らせています。
そこで、所長・副所長をはじめスタッフからの日付入りのテキストを現在時点の記録として、ここにお届けいたします。

慶應義塾大学アートセンター

 

テートからのメッセージ

桐島美帆(所員/学芸員)

まだ前職の美術館で勤務していた去る3月17日、私はEメールに届いたテート(Tate)の閉鎖を知らせるニュースレターに目を留めた。

「応援してくださっている全ての皆様へ、
120年以上もの間、私たちは世界中の素晴らしいアートを楽しむためにギャラリーを訪れてくださる方々をお迎えしてきました。しかし、来館者とスタッフの福利(welfare)は常にもっとも優先されなければなりません。(中略)私たちは、全ての人がアートへアクセスすることは普遍的な人権であると信じています。今まで以上に、アートは私たちの精神を高揚させ、日々を明るくし、私たちの心の健康をサポートしてくれます。ですからギャラリーが閉鎖されている間も、「Tate Online」で最高のアートを楽しむ方法をご紹介します。(後略)」

 私はこのメッセージを読んで、美術館における芸術作品の享受者である来館者と、作品の守り手であるスタッフの安全を最優先に考え、さらに誰もが芸術へアクセスできることは普遍的な人権であるという信念を明示したテートの言葉に、力強さを感じた。テートはこのメッセージを出した後、すぐにウェブサイトのコンテンツを充実させ、「あなたの気分にあった作品探し」や「美術館で働くスタッフの、お気に入りの作品にまつわるストーリー」といった親しみやすいテーマで、作品を楽しむ方法を発信していった。新型コロナウイルス流行による非常事態でなければ、私はこれらの取り組みを特段意識しなかっただろう。しかし、この状況において冒頭の力強いメッセージとともに発信されたことで、ひとつひとつのコンテンツに、美術館、作品、人とのつながりを保ち続けようとする同館の姿勢をはっきりと感じ取ることができた。

 このような状況下、私は4月1日付で当センターの所員として着任した。初日から在宅勤務となったが、幸いなことにすぐに取り組むべき仕事があった。そのひとつが、ソーシャルラーニングプラットフォーム「FutureLearn」で提供予定の講座の制作である。本学では、このオンライン教育プラットフォームを通じて、本学の研究の発信や、本学が所有する貴重書・芸術作品等を紹介する講座を展開している。原稿を執筆しながら、ふと、今制作しているこのコンテンツがいずれ世界に発信され、多くの受講者が学びに参加してくれることを想像した。本講座はこの非常事態を受けて制作が決まったコンテンツではないが、こういったある場所・時間に限定されない学びのコンテンツは、今後一層重要性を増していくだろう。更新非常事態下にあっても、意義のある教材作りに取り組めていることをありがたく思う。
 現在は全ての人にとって、研究資料や芸術作品への直接的なアクセスが限られている状況である。そのこと自体はもどかしく残念なことであるけれども、焦らず、持続的に、教育・研究に関わる仕事に邁進していきたいと、テートのメッセージに勇気づけられて、そう思った。

2020年5月7日


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