慶應義塾大学アート・センター Keio University Art Center

アーツ・マネジメント教育の総合的・体系的確立とその方法論による人材養成事業 事業概要(2015年度)

1998年にはいわゆるNPO法が施行され、2003年のいわゆる指定管理者制度の導入により公立文化施設の経営のあり方が話題となり、2008年には公益法人制度改革が始まり、民主党政権時には「新しい公共」という標語のもと公共の新たな担い手としての非営利組織に焦点があたり、2012年にはいわゆる劇場法が成立するなど、非営利性を有する文化芸術団体・施設経営に対する注目も集まっていると思われる。

その一方で、文化芸術団体の不正受給の問題が頻繁におこるなど、現在の文化芸術団体の経営のレベルとビジネス倫理は高くない。アーツ・マネジメント(非営利を中心とした文化芸術組織の経営)に対するニーズは高まっていると思われるのに、「芸術と社会の架け橋論」と言われる実学とはかけ離れた抽象論にとどまっていたり、単なる文化芸術事業の実施と混同されたりしている現状が見受けられる。

本事業は、象牙の塔の中での議論や表層的な理解・マイオピアを超え、公共的なミッションを達成するための文化芸術団体の経営についての教育、すなわちアーツ・マネジメントのあり方を根本から問い直し、教育対象、目的、方法など焦点を明確に定めた効果的かつ効率的なアーツ・マネジメント教育のプログラムの開発と実践、普及を目的とする。

 

サブプロジェクト

アーツ・マネジメント基礎講座                   
アーツ・マネジメントの基礎知識を得るための講座を開催する。
講座は3回構成で、第1回  アーツ・マネジメント入門/第2回  非営利組織論の基礎(Introductory Nonprofit Studies)/第3回  アーツ・マネジメント教育の標準カリキュラムにおける基礎ディシプリン を予定。アーツ・マネジメントの全体像・歴史・背景から個別のディシプリンまでコンパクトに習得できる講座を目指す。

 

アーツ・マネジメント実習講座「一般組織におけるアーツ・マネージャー育成(美術・建築/展示)」                                
企業、病院、学校などが保有しているアート(特に美術品)や近年関心の高まっている建築に関して、その扱いや対応を求められる部署の人材に対して、必要な知識とノウハウへのアプローチを開く。その価値を正しく把握し、適正な保存管理のノウハウや、展示活用する方途について、レクチャーおよびワークショップ形式で学ぶ。
この講座の実践的ケース・スタディとして、特定の展示室をもたず、場所的な制約を受けない展示の実践例である「ショーケース・プロジェクト」を実施する。

 

アーツ・マネジメント実習講座「文化装置としてのアーカイヴ構築とアート・アーカイヴ・マネジメント」
展覧会の記録や作品制作の記録など、美術作品以外のアートに関わる関係資料の「アーカイヴ」を構築し活用することは、現在、美術館などの公的な文化施設だけではなく、画廊やアートNPOなど、アートに関わる実務家たちの重大な関心事となっており、様々な規模でのアーカイヴ設置が進められている。しかし、それらの例の多くは短期的な試みに終わり、アーカイヴの社会的・文化的意義や効果に関する考察や長期的運用を可能にする方途の検討が求められている。本活動では、平成26年度に引き続き、国内・国外のアート・アーカイヴの運用状況の調査を踏まえた上で、15年の活動実績をもつアート・センターのアーカイヴの活動を対象として取り上げ、アート系アーカイヴを経営理論の観点から分析するワーキング・グループを開催する。アーカイヴをマネジメントの立場から取り上げる試みは全国的にも例がなく、この活動が初の試みとなる。ワーキング・グループには、学芸員、実演団体職員、ギャラリー経営者などの実務家の参加を求める。
また、アート・アーカイヴ・マネジメント教育のカリキュラム開発をめざし、アーカイヴ構築の思想的・社会的意義や、様々な素材から資料体を構築する具体的なノウハウを取り上げた基礎的実習講座を試行する(第1回  アーカイブ構築の思想的意義 第2回  アーカイヴ運営の実際 第3回  アーカイヴ構築の方法論)。

 

アーツ・マネジメント実習講座「地域連携と文化事業」                                
本講座では、地域と東京の共同制作による文化事業の実践を通じて、地域におけるアーツ・マネジメントを担う人材を育成することに加え、東京と地方の文化資源の共有や交換によるコミュニティの活性化をはかることを目的とする。
平成26年度実施の東京ー秋田協働文化事業をモデルケースとして、アーツ・マネジメントを担う人材・組織の発掘〜育成、また活動継続のために必要な施策に関する講座と、地域との協働による文化事業(秋田、青森)を、地域の大学の支援と連携のもとに実施する。
① 外国からの訪問者を多数迎えることを想定した地域連携文化事業の実践:青森市において、地域の人材と協働して芸術・芸能フェスティバルをプランニング・運営する
② 秋田講座:アーツ・マネジメントの実践、文化資源の共有化、文化事業のプランニングに関するレクチャーと人材・組織育成の支援を行う。
③ 東京講座:青森で開催する文化事業を元に、地域と東京のコラボレーションの有効なあり方についてレクチャーとディスカッションを行う。