慶應義塾大学アート・センター Keio University Art Center

アーツ・マネジメント教育の総合的・体系的確立とその方法論による人材養成事業 事業概要(2014年度)

1998年にはいわゆるNPO法が施行され、2003年のいわゆる指定管理者制度の導入により公立文化施設の経営のあり方が話題となり、2008年には公益法人制度改革が始まり、民主党政権時には「新しい公共」という標語のもと公共の新たな担い手としての非営利組織に焦点があたり、2012年にはいわゆる劇場法が成立するなど、非営利性を有する文化芸術団体・施設経営に対する注目も集まっていると思われる。

その一方で、文化芸術団体の不正受給の問題が頻繁におこるなど、現在の文化芸術団体の経営のレベルとビジネス倫理は高くない。アーツ・マネジメント(非営利を中心とした文化芸術組織の経営)に対するニーズは高まっていると思われるのに、「芸術と社会の架け橋論」と言われる実学とはかけ離れた抽象論にとどまっていたり、単なる文化芸術事業の実施と混同されたりしている現状が見受けられる。

本事業は、象牙の塔の中での議論や表層的な理解・マイオピアを超え、公共的なミッションを達成するための文化芸術団体の経営についての教育、すなわちアーツ・マネジメントのあり方を根本から問い直し、教育対象、目的、方法など焦点を明確に定めた効果的かつ効率的なアーツ・マネジメント教育のプログラムの開発と実践、普及を目的とする。

サブプロジェクト

1. 日本のアーツ・マネジメント教育の歴史記録

日本におけるアーツ・マネジメント教育は1991年に慶應義塾大学に始まり、それを契機として、その後武蔵野美術大学や昭和音楽大学でもアーツ・マネジメント教育が始まっている。日本へのアーツ・マネジメント導入から20年余がたち、当時の記録は散逸する可能性がある。アーツ・マネジメント導入当時の記録をまとめ、研究者等の閲覧に供する形にしておくことは、今後の日本のアーツ・マネジメント教育の発展には必要である。

 2. Board Education 芸術組織の理事に対する教育訓練(エグゼクティブ・セミナー)

芸術組織において、マネジメントはスタッフにまつわる概念であり、ガバナンスは理事や評議員、役員等にまつわる概念である。アーツ・マネジメントはそもそも、非営利組織となっている芸術団体他のプロフェッショナルなスタッフ、マネージャーに経営学のスキルを教え込むことが原義であった。一方、ガバナンスを担当する理事・評議員・役員等に関しては、日本のアーツ・マネジメントではこれまで焦点があたることが多くはなかったが、例えばアメリカではBoard(理事)に関する研究も進んでおり(John Carverなど)、Board Memberが教育を受ける機会もある。

本事業では、日本の芸術組織の発展に不可欠と思われる理事・評議員・役員等に対する教育とその実践に至るまでの研究に着手する。理事教育は日本のアーツ・マネジメント分野においては、早期の試みのひとつと思われる。

3. アーツ・マネジメント教育研究会

アーツ・マネジメント教育に携わっている教員とアーツ・マネジメントの正規の高等教育を受けた経験がある人を主たるメンバーとし、内外各大学・大学院での教育内容・方法を検討し、日本の教育との相違、問題点、日本の教育への応用について議論する。

4. アート・アーカイヴ・マネジメントに関するワーキング・グループ

展覧会の記録や作品制作の記録など、美術作品以外のアートに関わる関係資料の「アーカイヴ」を構築し活用することは、現在、美術館などの公的な文化施設だけではなく、画廊やアートNPOなど、アートに関わる実務家たちの重大な関心事となっており、様々な規模でのアーカイヴ設置が進められている。しかし、それらの例の多くは短期的な試みに終わり、アーカイヴの社会的・文化的意義や効果に関する考察や長期的運用を可能にする方途の検討が求められている。

本活動では、国内・国外のアート・アーカイヴの運用状況の調査を踏まえた上で、15年の活動実績をもつアート・センターのアーカイヴの活動を対象として取り上げ、アート系アーカイヴを経営理論の観点から分析するワーキング・グループを開催する。アーカイヴをマネジメントの立場から取り上げる試みは全国的にも例がなく、この活動が初の試みとなる。

5. 展覧会・公演等アート・イベントの実施とアーツ・マネジメント実習

平成25年度に試行したプロジェクト・ベースの新しい形の展示事業「SHOWCASE(ショーケース)」の本展示に加え、地方公共団体・市民との協働事業の試みとして、秋田県での朗読公演を開催するほか、観客動員数の多い中規模イベント運営の例として、ジャズ演奏会を実施する。展示・公演の開催にあたっては、専門家によるワーキング・グループの開催、アーティストへのヒアリングなどを通じた分析を行い、これらの分析結果をもとに、学外の公共ホール職員、学芸員、実演団体職員等の実務家と、学内のアーツ・マネジメントに興味がある学部生と院生を対象とし、専門家のコーディネートのもとにマーケティング等の実習を実施する。実習では、マーケット調査とそれに基づく施策立案の実際、来場者アンケート調査設計とそれに基づく改善策の立案、顧客データ解析に基づく会員の開拓とリテンション施策等を学び、どういうターゲットに、いかなる価値や便益の束を、どのような形で伝達できるかといったプランを専門家のもとで議論・作成する。展覧会の構成から広報までの全体のプロセスを対象に、アーツ・マネジメントに関するアカデミックでかつ実践的でもある実習の機会を提供するとともに、実習で作成したプランを展覧会・公演の実施に際して提案する。

6. ケース・メソッドのアーツ・マネジメント教育への採用

平成25年度に開発したケース教材をアーツ・マネジメント教育のフォーマルなカリキュラム他で使用し、教育の実践を行う。

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