慶應義塾大学アート・センター Keio University Art Center

[和田家肖像画]修復

幼稚舎所蔵作品である本作品は、幼稚舎の初代舎長和田義郎(1840-1892)とその家族を描いたとされる肖像画である。和田の他に若い女性、老いた女性の肖像画と合わせて 3 点からなり、ここではそれぞれ[和田家肖像画 男性] [同 女性(若) ] [同 女性(老) ]と記す。作者、作品名、制作年は不詳。男性の肖像画と若い女性の肖像画は、それぞれ和田義郎及び妻喜佐[きさ]の肖像写真と似ているため、写真をもとに描かれたと推測される。支持体の変形、顔料の剥落、しみ等が見られたため、修復研究所二十一に保存修復処置を依頼し、修復後、新たに額装した。



●作品

作者:不詳
作品名: [和田家肖像画 男性]
制作年:不詳
材質:油彩・厚紙
寸法:45.0 × 33.2cm

修復記録
2024 年 5 月 1 日
有限会社修復研究所二十一
所長 渡邉郁夫 担当者 宮﨑安章

[処置前の状態]
ワニス層:なし。
絵具層:画面全体にしみがある。しみは黴の痕跡である。擦れによってできた筋状の凹みがある。画面の周囲に剥落が多数あり、左下角がつぶれたように変形している。
支持体:茶色の厚紙。裏面は埃や塵などで多少汚れている。
額縁:なし。

[修復処置内容]
1.修復前、中、後をデジタルカメラで撮影した。
2.修復前の作品の状態を調査した。
3.膠水を浮き上がった箇所に注入し、電気ゴテで加温加圧して接着を行った。
4.支持体のつぶれの変形箇所に膠水(10 %)を注し、接着強化した。
5.掃除機を使い裏面の清掃を行った。エタノールで殺菌処置を行った。
6.脱脂綿を巻いて作った綿棒に希アンモニア水(0.1 %)をしみ込ませて洗浄を行った。
7.チアベンザゾール(T .B.Z)を主成分とした防黴剤を塗布した。
8.溶剤型アクリル樹脂絵具を使って補彩を行った。
9.ダンマル樹脂ワニスを塗布した。
10.額縁は新調した。UV カットアクリル板と裏蓋はポリカーボネイト板も新調した。

●作品
作者:不詳
作品名: [和田家肖像画 女性(若) ]
制作年:不詳
材質:油彩・厚紙
寸法:45.0 × 33.2cm

修復記録
2024 年 5 月 1 日
有限会社修復研究所二十一
所長 渡邉郁夫 担当者 宮﨑安章

[処置前の状態]
ワニス層:なし。
絵具層:画面全体にしみがある。しみは黴の痕跡である。擦れによってできた筋状の凹みがある。画面の周囲に剥落が多数ある。顔の左側に破れによる亀裂がある。
支持体:顔の左側に裏面から強い力で押された影響で支持体の裂けがあり、破れが生じている。茶色の厚紙。裏面は埃や塵などで多少汚れている。
額縁:なし。

[修復処置内容]
1.修復前、中、後をデジタルカメラで撮影した。
2.修復前の作品の状態を調査した。
3.膠水を浮き上がった箇所に注入し、電気ゴテで加温加圧して接着を行った。
4.支持体のつぶれの変形箇所に膠水(10 %)を注し、接着強化した。
5.掃除機を使い裏面の清掃を行った。エタノールで殺菌処置を行った。
6.脱脂綿を巻いて作った綿棒に希アンモニア水(0.1 %)をしみ込ませて洗浄を行った。
7.炭酸カルシウムを膠水(10 %)で練り合わせて充填剤を剥落箇所に詰め、周囲の絵肌に合わせて整形した。
8.チアベンザゾール(T .B.Z)を主成分とした防黴剤を塗布した。
9.溶剤型アクリル樹脂絵具を使って補彩を行った。
10.ダンマル樹脂ワニスを塗布した。
11.額縁は新調した。UV カットアクリル板と裏蓋はポリカーボネイト板も新調した。

●作品
作者:不詳
作品名: [和田家肖像画 女性(老) ]
制作年:不詳
材質:油彩・厚紙
寸法:45.1 × 33.2cm
修復記録
2024 年 5 月 1 日
有限会社修復研究所二十一
所長 渡邉郁夫 担当者 宮﨑安章
[処置前の状態]
ワニス層:なし。
絵具層:画面全体にしみがある。しみは黴の痕跡である。黒色がチョーキングしている。クラフト紙の様な茶色の紙が付着している。擦れ傷が多数あり凹んでいる。
支持体:顔の右側にえぐり取られた様な痕跡の剥落がある。
茶色の厚紙。裏面は埃や塵などで多少汚れている。
額縁:なし。

[修復処置内容]
1.修復前、中、後をデジタルカメラで撮影した。
2.修復前の作品の状態を調査した。
3.膠水を浮き上がった箇所に注入し、電気ゴテで加温加圧して接着を行った。
4.支持体の変形箇所に膠水(10 %)を注し、 接着強化した。
5.掃除機を使い裏面の清掃を行った。エタノールで殺菌処置を行った。
6.脱脂綿を巻いて作った綿棒に希アンモニア水(0.1 %)をしみ込ませて洗浄を行った。
7.炭酸カルシウムを膠水(10 %)で練り合わせて充填剤を剥落箇所に詰め、周囲の絵肌に合わせて整形した。
8.チアベンザゾール(T .B.Z)を主成分とした防黴剤を塗布した。
9.溶剤型アクリル樹脂絵具を使って補彩を行った。
10.ダンマル樹脂ワニスを塗布した。
11.額縁は新調した。UV カットアクリル板と裏蓋はポリカーボネイト板も新調した。

図1 [和田家肖像画 男性] 修復前 表
図2 [和田家肖像画 男性] 修復前 裏
図3 [和田家肖像画 男性] 洗浄途中
図4 [和田家肖像画 男性] 修復後 額装 表 
図5 [和田家肖像画 男性] 修復後 額装 裏
図6 [和田家肖像画 女性(若) ]修復前 表
図7 [和田家肖像画 女性(若) ]修復前 支持体の浮き上がり箇所(左辺下)
図8 [和田家肖像画 女性(若) ] 修復中 浮き上がり接着作業
図9 [和田家肖像画 女性(若) ]修復中 支持体の変形修正
​​​​​​​図10[和田家肖像画 女性(若) ] 修復後 額装 表
​​​​​​​図11[和田家肖像画 女性(老) ]修復前 表
​​​​​​​図12[和田家肖像画 女性(老) ]修復中 顔右側の損傷箇所からガラス片が見つかる。
​​​​​​​図13[和田家肖像画 女性(老) ]修復中 取り出されたガラス片
​​​​​​​図14[和田家肖像画 女性(老) ]修復中 画面の付着物除去
​​​​​​​​​​​​​​図15[和田家肖像画 女性(老) ]修復後 額装 表

日付

2024 年5月1日


What's on