慶應義塾大学アート・センター Keio University Art Center

駒井哲郎≪白い黒ン坊≫修復

慶應義塾幼稚舎と普通部に学んだ銅版画家、駒井哲郎による作品。≪白い黒ン坊≫は1950年の春陽会で初出品された。本作品は幼稚舎に寄贈された際、画面およびマットが黄化しており、額は古く、一部が外れている状態であったため、修復研究所二十一に修復を依頼した。

左横の写真は 修復後 額装 表。

写真
修復前 額装 表、修復前 額装 裏、湿式洗浄(わずかに加湿した作品をサクションテーブル上に置き、支持体全体を吸収しながら、精製水を噴霧し、繊維間に付着している汚れを洗浄した)、修復後 額装 裏



保存修復作業記録

令和4年9月12日
有限会社 修復研究所二十一
所長 渡邉郁夫 担当 有村麻里
作業日:2021年11月29日~2023年12月6日
 

・作品

作者:駒井哲郎
作品名:白い黒ン坊
制作年:1950年
材質:版画用インク・洋紙・雁皮紙
寸法:27.9×20.3 cm

 

・処置前の状態

作品は額装されている。
支持体:洋紙。プレートマーク内、版が刷られている部分に雁皮紙が使用されており、黄化の影響もあるが、やや褐色味を帯びた印象である。数カ所に褐色の斑状のしみが見られる。全体に緩やかな波打変形が生じている。裏面に作品を固定するために使用された紙テープの色やセロハンテープ接着剤のしみが画面側に浸みている部分がある。右辺下方にしわが生じている。

絵具層:特に損傷なし。

額縁:ガラス。角が外れて歪んでいる。裏蓋はベニヤ板が使用され、間紙はアクの影響と見られる黄化が顕著である。作品が固定されていた窓マットも全体に黄化している。作品の環境としては、危険を伴い、劣化を促進する状態である。
 

・修復処置内容

1.    修復前の作品をデジタル撮影し、記録した。
2.    修復前の作品の状態を調査書に記録した。
3.    作品の調査を行った後、必要な処置・使用する材料を検討した。
4.    マットに紙テープで固定されていたため、医療用メスを用いて削ぎ、剥がれる部分は剥がして作品をマットから外した。
5.    刷毛で埃をはらい、画面側は周囲の余白部分を練り消しゴムで汚れを除去した。裏面側は粉消しゴムを用いて全体の汚れを清掃した。
6.    洗浄前に僅かに支持体を加湿し、吸い取り紙を予め敷いたサクションテーブルの上に作品を置き、全体を吸引しながら精製水を噴霧した。洗浄後、吸い取り紙・エステル紙の間に作品を挟み、平らな状態になるようプレスした。その間、支持体がある程度乾くまで、何度か吸い取り紙を交換した。
7.    濃度を調整した過酸化水素水、希アンモニア水溶液を併用し、細い筆でしみが生じている部分にさし、吸い取り紙で押さえ、水分を吸い取り、様子を見ながらしみ抜きを行った。
8.    支持体裏面の4箇所に、四辺を食い裂いた短冊状の和紙をメチルセルロースで接着した。マット固定する位置を決め、和紙ヒンジ部分をマットに固定した。
9.    新調した額縁にマット装した作品を収めた。ガラスは反射の少ないオプティアムミュージアムアクリルに交換した。
10.    修復後の作品をデジタル撮影し、記録した。
11.    修復作業の撮影記録等とともに、報告書を作成した。

 

・修復後の所見

湿式洗浄を行い、マット、額縁の新調も行ったことで全体に明るくなり、保存環境の安定とともに作品を鑑賞しやすい状態となった。

日付

2021年11月29日~2022年12月6日


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