宇佐美圭司 《やがて、すべてが一つの円の中に》洗浄保存処理
本作品は三田メディアセンターの入り口右脇に設置されている。外気にやや触れる環境でもあることから、とりわけ出入口に近い、右下部分に汚れが目立ち、全体にも埃が付着している様子が見てとれた。
今回は状態を観察していただいた上で洗浄処置を依頼した。修復方針と使用する材料を決めるため、2月4日に事前調査を行い、画面の一部(右下隅)で洗浄実験を行なった。
保存修復作業記録
2019年3月1日修復研究所21 所長 渡邉郁夫/担当者:宮﨑安章
作品
・作品=やがて、すべてが一つの円の中に
・作者=宇佐美圭司
・制作年=1982(昭和57)年
・材質・技法=油彩、カンヴァス、木の額縁
・寸法=画面寸法 6,795×2,389 mm 外寸法=6,875×2,463 mm
【作業前の状態・表面の状態】
・画布はパネルに張り込まれている。額縁は箱型の形状で幅が44mm、奥行き138mm ある。材はタモ材である。
・画面の上部に目視で確認出来る大きさの埃が付着している。また塵など汚れが全面に付着している。
・画面右側の出入口付近は左側と比べ汚れの付着が目立つ。
・茶褐色の粒状シミ(汚れ)が多数右側下部にある。雨のしずくが飛んで出来たと思われる汚れのたまりが観察できる。
・擦れによる絵具層の剥落が数カ所ある。
・額縁上面には、想像以上の埃が積もり、作品とのすき間にも埃や黒色でススに近い細かい粒状の汚れが積もっている。 事前調査から、額縁を含む作品の表面に付着した大きな埃を除去後、水(H2O)を使用して汚れを取り除く方針で作業を進めた。油脂を含む汚れが付着していた場合は弱アルカリ性の洗浄液(希アンモニア水)を使う事も一考した。
【作業内容】
・作品寸法の計測と損傷の確認。
・額縁上面、周囲の埃の除去。掃除機で吸い取り、ウエスに水を含ませて拭き取った。
・画面の汚れ除去(クリーニング)。最表層の汚れは毛ハタキや柔らかい刷毛を使って取り除いた。15mmほどの幅に切った帯状の脱脂綿を竹串に巻き、手製の綿棒を使い、水を含ませて画面全体の洗浄を行なった。経年による汚れは思いのほか付着しており、繰り返し洗浄作業を行なった。
・絵具層の剥落箇所の補彩(リタッチ)。溶剤型アクリル樹脂絵具を使い、周囲にはみ出さないように補彩を行なった。可逆性のある絵具を使用しているのでミネラルスピリットなど、オリジナルを傷めることのない弱い溶剤で除去できる。
写真は左から
写真1:修復前 画面右側の下に黒い斑点状のシミ、絵具の剥落
写真2:修復中 額縁の上面 1cm ほど埃が積もっていた
写真3:修復中 補彩作
写真4:修復後 全体
日付
2019年2月18日~20日