作者不詳《福澤諭吉肖像》油彩画面および額縁の修復
福澤研究センター所蔵の本作品について2018年は油彩画布面に先行して額縁の修復を行い、2019年は、本体の油彩画布面の修復を行い、ここに報告する。
保存修復作業記録
2018年3月25日 修復研究所21 所長 渡邉郁夫/担当者:宮﨑安章
2019年3月29日 修復研究所21 所長 渡邉郁夫/担当者:宮﨑安章
作品
・作品=福澤諭吉肖像
・作者=不詳
・制作年=不詳
・材質・技法=油彩、カンヴァス、額縁は木製、石膏モールディング
・寸法=画面寸法 851.0×675.0mm 厚み70.0mm
・サイン=無し
・修復歴=無し
【作業前の状態・表面の状態】
2018年
・額縁の四隅は外れている。裏面の四隅の補強材でかろうじて外れずに留まっている。
・モールディングは石膏で金箔が施されている。
・モールディングは剥落して欠損している箇所がある。特に右側の欠損は著しい。
・石膏は生が抜け、接着力が弱まり、浮き上がっている箇所が多数ある。
2019年
・ワニス層:光沢は無く、黄化している。
・絵具層:画面全体が砂埃や塵などで汚れている。額縁の入子で隠れていた上辺と左辺は汚れの付着は少なく、下辺部68と右辺は非常に汚れが溜まった状態になっている。下辺部には黴が発生しチョーキングしている。また黒色の衣服もチョーキングを起こしている。 画面向かって右側の胸部に擦れが原因の破損箇所がある。破損の長さは天地に25mmほどある。頭の上部にも擦れによる剥落がある。右胸、ネクタイ周辺にも剥落箇所がある。亀裂は細かく全面に観察できる。虫糞が付着している。
・支持体:WINSER & NEWTON製の画用キャンバス。繊維は比較的細い亜麻。たるみが多少ある。裏面は砂埃や塵などで汚れている。特に下辺の木枠との隙間には汚れが詰まっている。
・木枠:員数5本(中桟1本)、楔穴12箇所、楔は12個ある。
【作業内容】
2018年
・四隅の外れた箇所は、エポキシ樹脂接着剤を使って接着を行った。バンドクランプで固定して接着作業を行った。
・裏面の四隅に、厚さ10mmの合板を取り付けて補強した。
・刷毛で表面の埃や塵を取り除き、希アンモニア水で洗浄を行った。
・モールディングの浮き上がり箇所は、瞬間接着剤(シアノアクリレート)を使って行った。欠損して無くなってしまった箇所は、残ったモールディングから型取りをして、複製を作製した。型取りはシリコンゴムを使い、複製はプラスティック樹脂で製作した。欠損箇所に合わせて整形して、エポキシ樹脂接着剤を行った。
・隙間や細かな剥落はエポキシ樹脂パテを使って行った。
・彩色は水性アクリル樹脂絵具で行った。
2019年
・修復前、中、後をデジタルカメラで撮影し修復前の作品の状態を調査した。
・膠水を浮き上がった箇所に注入し、電気鏝で加温加圧して接着を行った。
・脱脂綿を巻いて作った綿棒に、希アンモニア水をしみ込ませて拭き取り除去した。
・掃除機を使い裏面の清掃を行った。エタノールで殺菌処置を行った。
・亜麻布の繊維状にしたものをホットメルト型アクリル樹脂接着剤(BEVA371シート)で接着してかけはぎをおこなった。
・支持体周囲の耳部に亜麻布をホットメルト型アクリル樹脂接着剤(BEVA371シート)で接着して耳補強をおこなった。
・仮枠に作品を張り込み、加温加圧して変形を修正した。
・オリジナルの木枠を使用するため、清掃をおこない、アルコールで殺菌した。
・作品をオリジナル木枠に張り込んだ。
・炭酸カルシウムと合成樹脂接着剤を練り合わせた充填剤を詰め、周囲の絵肌に合わせて整形した。
・チアベンザゾールを主成分とした防黴剤を塗布した。
・溶剤型アクリル樹脂絵具を使って補彩を行った。
・ワックス入りのダンマル樹脂ワニスを塗布した。
・昨年修復をおこなったオリジナルの額縁に額装した。1985)。
写真は左から
写真1:作品 福澤諭吉肖像(表)
写真2:作品 福澤諭吉肖像(裏)
写真3:処置前 額縁(表)
写真4:処置前 額縁(裏)
写真5:処置前 額縁(表)モールディング欠損部分 右角上
写真6:処置前 額縁(表)モールディング欠損部分 右角下
写真7:破損箇所(四隅)接着
写真8:修復後 額縁(表)
写真9:修復後 額縁(裏)
写真10:処置前 剥落箇所(上辺中央)
写真11:処置前 付着物 (虫糞)
写真12:洗浄作業
写真13:処置後 剥落箇所(上辺中央)
写真14:処置後 付着物除去
写真15:修復後 額付き(表)
日付
2017年11月~2018年3月
2018年8月~2019年3月