《ユニコーン像》中等部野外彫刻洗浄保存処置
ユニコン像と呼ばれている一対の怪物像(その姿からはガーゴイルと称するのが妥当と思われるが、慶應義塾においては一角を有することから常に「ユニコン」と称されている)は、三田キャンパスにあった関東大震災で被災し、建物正面を全面的に改修された際に3階バルコニーに付設された。この設置の経緯は当初から不明と伝えられている。大講堂は1945年の空襲で激しく被災し、廃墟のまま10年余キャンパスにあったが、その間もユニコン像は残っていた。その後西校舎建設のために大講堂と共に撤去された。現在、中等部一対にあるユニコン像の内、右像(本記事では「ユニコン像1」とする)は西校舎脇に残骸として残されていた像を譲り受けて中等部26回生卒業記念寄付をもとに修復を施し1975年に設置された。左像(本記事では「ユニコン像2」とする)1978年に中等部開設30年を記念して慶應商工学校同窓会が中等部美術科教員三浦大和に制作を依頼して復元、寄贈された。
ユニコン像については、特にオリジナル《ユニコン像1》が経年による劣化が心配され、中等部の依頼を請けて、保存状態および今後の処置についての予備調査を専門家に依頼して、2012年度に行った。その結果、両像とも屋外に設置されているが、特に《ユニコン像1》については、できれば屋内設置が望ましいが、それが不可能な場合の保存処置が提示された、この調査結果および修復計画提案を受けて、2013年度に修復を実施した。また、調査段階では、《ユニコン像1》の上部に建物の雨砥があり、像の上に雨水が落下するという保存上望ましくない状況であったため、これについては、改善を依頼し、雨水の落下を避ける処置が施された。2014度は、上記2点について、アート・センターを通じて専門家による状態観察と洗浄を行った。
保存修復作業記録
2013年12月2日 ブロンズスタジオ・高橋裕二、伊藤一洋、篠崎未来
2016年5月10日 ブロンズスタジオ/黒川弘毅/作業者:黒川弘毅、篠崎未来、遠藤啓祐
作品
作者=不明
作品=ユニコーン像[1]
材質・技法=セメント
制作年=1924年頃(関東大震災後)
寸法=高さ約135 cm
【予備調査による必要な保存処置の提案】(2014年2月)
・ 現在のところ鉄製補強材の腐食による爆裂はみられず、全体的形状の崩壊につながるような作品の存続にかかわる致命的なダメージはないが、降水の影響を受けるエリアでは表層の喪失が加速度的に進行している。骨材の遊離・脱落による素地の脆化・減衰が激しく、形状の消耗が優勢になっており、状態の悪化は深刻な段階に来ている。
・ 作品を保存する観点からは、早急な屋内への移動が最も望ましいと考えられる。
・ 当面、作品を屋外で維持する場合は、樹脂含浸を施して耐候性を向上させて劣化を遅らせ、作品の延命を図ることができる。洗浄して表面の汚れや付着物・藻類を除去した後、表面からシラン系樹脂溶液を含浸させることで、脆化したコンクリート組織を強固化する。この処置はイサムノグチ作『無』に施している。
【作業の基本方針】
2013年度
・ 作品表面を洗浄して汚れや苔などを除去する。
・ 含浸剤は水分と加水分解反応をおこすため、コンクリート母材を充分乾燥させる期間を置き、
降雨は作品を屋根囲いて防ぐ。
第1回作業 11月18日−19日
1. 単管足場による足場囲いをする。作品乾燥のため降雨の影響がないように充分な面積の屋根
で覆う。
2. 高生分解性 非イオン系洗剤を用いて作品洗浄を行う。
3. 洗浄剤での洗浄作業だけでは、苔やカビの表面残留があるため、次亜塩素酸塩水溶液を作
品表面に塗布して水洗いする。
4. 作品の乾燥期間をもうけ、充分に乾燥させる。
第2回作業 11月25日−29日
25日作業内容
1. 含浸剤を塗布する箇所より下を養生シート、マスキングテープなどで養生する。
2. 含浸剤を作品台座より含浸させ、そのごユニコン本体への含浸剤塗布を行った。
*作業時間中の気温 12.1~29.7℃
作業時間中の湿度 32~57%
26日作業内容
1. 引き続き含浸作業を行う。
*作業時間中の気温 26~36℃
作業時間中の湿度 29~31%
27日作業内容
1.翌日の撥水剤塗布に向け、含浸剤を十分に硬化させる。台座に溜まった余分な含浸剤を拭き取る。
28日作業内容
1.降雨の影響を受ける頭頂部など上向き面に撥水剤を塗布する。
*作業時間中の気温 13.6℃
作業時間中の湿度 40%
*主な使用材料
シンプルグリーン(サンシャインメーカーズ、米国)非イオン系洗浄剤
A・SOLD−11 (株式会社緑科学研究所)含浸強化剤 データシート添付
A・SOLD−15 (株式会社緑科学研究所)防水・撥水剤データシート添付
2014年度
ユニコーン像[1]
・表面の状態:樹脂含浸が施されて以後、骨材は堅牢に定着していて脱落は観察されなかった。亀裂の充填材は良好に保たれ裂開箇所は見られなかった。
・鳥の排泄物:なし。
・人為的キズ・落書きの個所:なし。
・破損・欠失個所:なし。
・その他の異常:銘板の裏打ちに用いられている木材の合板が腐り、ステンレス製の表装が脱落しかけていた。
・固定状態:良好。
【作業結果】
2013年度
・ 作品母材であるコンクリートは含浸剤(シラン)を含浸させたことにより、
・ セメントの流出、骨材の剥落防止が期待できる。
・ 作業直後(保存処置後)の作品の外観は含浸剤により濡れ色を呈しているが、数ヶ月後には
元のコンクリートの質感にもどる。
・ 含浸剤の使用量は5㎏であった。
【作業内容】
2014年度
1.洗浄作業 非イオン系洗剤を用いて洗浄した。
【作業結果】
作業前と比較して、顕著な変化は認められない。
写真は左から
写真1:銘板の脱落
写真2:洗浄
日付
2013年11月18日〜29日
2016年1月26日
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