扁額《月波楼》(中村不折 筆)の修復
「月波楼」はもともと三田旧島原藩邸にあった三層の建物で、学生に貸与される図書が置かれ、慶應義塾において最初に図書館的役割を担ったため、図書館の最初の名称とも解釈されている。創立50年記念として図書館が建設された折(現在の図書館旧館)、八角塔最上階に「月波楼」の名が付され、扁額が掲げられていたという。本作品は年記から1916年(大正5年)の作と知られるが、図書館の竣工は1902年であり、最初の扁額ではないと考えられる。本作は美術品ではないが、埃等の汚損は見られないものの、特に文字の墨差し部分等に劣化が見られたため、アート・センターを通じて専門家に依頼し、修復保存処置を施した。
中村不折(1866-1943)はフランスに留学してジャン・ポール・ロランスに私淑し、印象派風を学ぶ留学生が多い中にあってアカデミックな画風を学んだことで知られる。油彩画のみならず、日本画、書にも優れ、1936年書道博物館を設立した。
[文献]「慶應義塾図書館」「月波楼」『慶應義塾史事典』慶應義塾、2008年399-400頁/ 356-357頁。
保存修復作業記録
2014年10月31日 修復研究所21・宮崎安章
作品
作者=中村不折
作品=月波楼
制作年=1916(大正5)年
材質・技法=スマルト、朱、ケヤキ
寸法=123.0 × 38.8 × 3.5cm(厚み)
【作業内容】
・絵具層の浮き上がり接着(文字の部分):膠水(1:10)を浮き上がり箇所に細い筆で注し、緩衝材のシリコンシートを敷き、電気ゴテで加温 加圧して接着を行った。
・表面の洗浄:柔らかい刷毛で埃等を取り除いた後に木部はウエスに純水を含ませて洗浄を行った。
・裏面清掃 / 防黴殺菌:裏面の埃等は掃除機で清掃し、エタノールで防黴殺菌処置を行った。
・充填整形:炭酸カルシウムを膠水で練った充填剤を剥落箇所に詰め、周囲のマチエールの合わせて整形した。 木部の欠損はエポキシ樹脂パテを使用した。
・補彩:溶剤型アクリル絵具を使用し補彩を行った。
・吊り金具の交換、新調:真鍮製のヒートンは、作品の重さで変形していたため、ステンレス製の金具とワイヤーに交換した。
写真は左から
写真1:修復前
写真2:修復後
写真3:修復中 浮き上がり接着
日付
2014/10/31
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