慶應義塾大学アート・センター Keio University Art Center

峰孝《牧童》の着色補整・保存処置

 志木高等学校の体育館前中庭に設置されている《牧童》は、戦後は自由美術協会で活動した京都出身の彫刻家峰孝の作品で、同じ作品が札幌大通り公園にも設置されている。この作品は志木に最初に移転した獣医畜産専門学校(同校は在校生の卒業とともに1949年に閉校)の卒業生が、創立125周年記念に1982年に同校に寄贈した。
 作品は長年に渡り屋外に設置されて、降雨による条痕も多く、修復保存処置の必要な状態であり、同校よりケアの要望が寄せられたため、専門家に依頼して処置を行った。



保存修復作業記録

2009年5月 ブロンズスタジオ・黒川弘毅/作業者:黒川弘毅、板津稜二、伊藤一洋

作品

  • 作者:峰孝
  • 作品名:牧童
  • 素材・技法:ブロンズ、獣医畜産専門学校卒業生寄贈

【作業前の状態】
・上向き水平面―垂直面は、淡青色をした自然の錆が優勢になっている。
・安定した錆の緻密な形成は部分的であり、金属の溶出による評の粗面過が優勢になっている。
・下向き斜面は、降水の流水路に淡青色の発錆が条痕の縞模様を形成している。降水の影響を免れた部位は、設置当初からの暗褐色が残っている。条痕と着色残留個所のコントラストが顕著で、特に後面は条痕が醜悪である。流水路での金属減衰(凹み)は認められない。
・目、下腹部に油性マーカーによる落書きあり。

【作業の基本方針】
・化学的着色法により像の色調を補整する。
・発錆部は、錆の表面に硫化銅を形成して暗色に転換し、着色残留物とのコントラストをなくして着色の調和をはかる。
・条痕の補整は、発錆を免れた着色残留の暗褐色に合わせる。
・表面に保護剤を塗布して保管処理を施す。保護剤には蜜蝋を用いる。

◦作業内容
 1.洗浄作業
非イオン系洗剤を用いて洗浄した(使用材料=非イオン系洗剤溶液)。
 2.銘板保護
科学的着色補整で用いる薬剤から保護するため、銘板に保護剤を塗布した(使用材料=蜜蝋、リグロイン)。
 3.着色補整作業
硫化化合物を用いて錆を暗褐色に転換した(使用材料=硫化カリウム溶液)。
加熱によって反応を調節した。
 4.保護剤塗布作業
ワックスを塗布した(使用材料=蜜蝋、リグロイン)。
 5.光沢調整作業
作品の輪郭にメリハリをつけるため、部分的にワックス表面を研磨して光沢を調整した。

【作業結果】
・色調は暗褐色に変化し、条痕は目立たなくなった。
・保護剤の塗布により、表面に光沢が生じた。
・ワックスの塗布により、表面は良好な撥水性を得た。

写真は左から
写真1:修復前
写真2:修復後

日付

2009 年 3月 4 日