ARTLET 50 Butohの現在II 土方巽への問い
今年は1968年の舞踏公演「土方巽と日本人~肉体の叛乱」から50年のメモリアルイヤーである。土方巽の舞踏への問いかけはあいかわらず続いている。ARTLET50号へ寄せられた原稿は、世界各国各地域の表現者たちによる土方巽への応答でもある。なかんずく、チョイ・カファイさんは映像のデジタル技術によってリアルな身体とフェイクなアバターをシンクロさせつつ、呪術的な世界をも背景にして、土方巽の仮象の肉体を舞踏のオーセンティックな歴史にそわせつつ、土方巽の亡霊による振付をめぐって問いかけている。ついで、世界各地で舞踏活動を行っているダンサーや舞踏研究者からの報告を寄せてもらった。報告からうかがえることは、土方巽との格闘でもあり、さらには土方巽の舞踏世界からの解放を求めてもいるかのようでもある。また、彼/彼女たちの活動拠点はしばしば母国から遠く離れている。そのことは、舞踏自体が今や、世界の流浪の旅の途上にあるともいえよう。いずれにしても、世界各地で土方巽の名を呪文のように唱えつつ舞踏を実践し、あるいは舞踏を研究する人がいることは確認できる。
また、この6月から7月にかけて、土方巽の著作『病める舞姫』を使って、ダンスの競作が行われたが、それに参加した一人が黒田育世さんであった。日本を代表するコンテンポラリー・ダンサーである黒田さんが「病める舞姫」にどう向き合い土方巽をどう捉えて、本番に向かっているのか、ongoingの状況や見解、作品の構想までを語っていただいた。貴重な証言の一部が収められないのは残念だが、その答えは本文を読んでいただくとおりである。それにしても黒田さんの土方巽の理解と土方巽に向かう姿勢には驚かされた。そして、本番のパフォーマンスは終始、緊張感に満ちていて、終盤に至って裂帛の瞬間を迎えるのであった。劇場で体験をされた人は、この証言を読んで、もう一度、黒田さんの舞台を見てみたいと思うに違いない。いずれにせよ、本号に寄せられた8本のアーティクルは、いずれも土方巽への鋭い問いを孕んだButohの現在にほかならない。(森下隆)
FEATURE ARTICLES Butohの現在II 土方巽への問い
- 土方巽の霊に宛てたEメール チョイ・カファイ
- 土方巽『病める舞姫』を踊る 黒田育世
TOPICS
- 海外からの舞踏報告 ヒマラヤ、ニューヨーク、メキシコ、台湾、ベルリン、ポーランド
INFORMATION
- 活動報告
- ARTLET 準備号
- ARTLET 01
- ARTLET 02
- ARTLET 03
- ARTLET 04
- ARTLET 05
- ARTLET 06
- ARTLET 07
- ARTLET 08
- ARTLET 09
- ARTLET 10
- ARTLET 11
- ARTLET 12
- ARTLET 13
- ARTLET 14
- ARTLET 15 ノーテーション
- ARTLET 16 アナログ/デジタル
- ARTLET 17 ファッション
- ARTLET 18 ミュージアムマネジメント
- ARTLET 19 音霊(おとだま)
- ARTLET 20 ADR (Art Documentation and Registration)
- ARTLET 21 メディアとアート
- ARTLET 22 CADとデザイン
- ARTLET 23 芸術療法とその周辺
- ARTLET 24 瀧口修造 1958 —— 旅する眼差し
- ARTLET 25 映画における真実(リアル)
- ARTLET 26 Note~ノートする~
- ARTLET 27 油井正一&アスペクト・イン・ジャズ
- ARTLET 28 検索というポリティクス
- ARTLET 29 波(ウェイブ)
- ARTLET 30 大学にとって研究所とは?
- ARTLET 31 絶叫/爆音
- ARTLET 32 botanical garden ── 神と魔女が出合う園
- ARTLET 33 東京タワーとスカイツリー
- ARTLET 34 建築と記憶・歴史
- ARTLET 35 「テレビの時代」の終焉
- ARTLET 36 東北と芸術
- ARTLET 37 西脇順三郎
- ARTLET 38 3・11以降の芸術 3・11以降の学問
- ARTLET 39 展覧会という仕掛け
- ARTLET 40 アート・センター開設20年 ── 芸術の未来に向けて
- ARTLET 40別冊 アート・センター20年の歩み
- ARTLET 41 実験工房 ── アートの創造
- ARTLET 42 舞踏、その世界性
- ARTLET 43 ルパンとジャズ・スタディーズ
- ARTLET 44 ライブ×メディア― 演劇と映像の関係性をめぐって
- ARTLET 45 アートと企業活動の、現在
- ARTLET 46 スポーツ―拡張する身体
- ARTLET 47 アートと地域連携
- ARTLET 48 ユニバーシティ・ミュージアム
- ARTLET 49 北斎 HOKUSAI
- ARTLET 50 Butohの現在II 土方巽への問い
- ARTLET 51 慶應義塾大学アート・センター アーカイヴ・コレクション
- ARTLET 52 映画祭からうまれるもの
- ARTLET 53 スイングしながら、学問を。
- ARTLET 54 「歩み寄るアートと科学」への問い
- ARTLET 55 Hip Hop ストリートと学知
- ARTLET 56 有元利夫の素描─その「音楽」の源へ
- ARTLET 57 瀧口修造のアクチュアリティを現在に接続する
- ARTLET 58 アート・センター開設30周年──挑戦を続けて
- ARTLET 59 駒井哲郎 ─ 線が描き出す芸術家の軌跡
- ARTLET 60 アート・センター 2013–2023
- ARTLET 61 美術品が学び舎に住まうとき