アーカイヴ
慶應義塾大学アート・センターは、1993年の設立当初より、現代の芸術・文化に関する「アート・アーカイヴ」の構築に関心を寄せてきました。当アート・アーカイヴは1998年に開設され、2020年には22年目を迎えました。土方巽資料の受け入れに端を発することにより、舞踏(パフォーマンス)のように、時間の経過に伴い消えてしまう形態の芸術活動を対象としてアーカイヴを開始したと言えます。そのような芸術活動は残された資料群を通してしかアプローチすることができません。特に戦後の芸術活動に顕著なこの傾向は、資料群の重要性を否応なしに認知させるとともに、資料体構築の方法を考え続けることを要請します。
そもそも「アーカイヴ」とは、ある特定の主題に関する一次資料を収集・整理・保存・管理・調査・公開する機関を意味します。アート・センターにおけるアーカイヴ活動は、研究者のネットワークのハブとして機能することを目指し、研究活動を行い、あわせて特定主題に関する研究成果(二次資料)の収集・蓄積と情報化に重点をおく「研究アーカイヴ」の構築を実践しています。さらにはアーカイヴが、歴史を構築し、検証し続けることを可能にするマトリックスとして機能するだけではなく、アーカイヴ活動それ自体を、ひとつの知の体系、方法論として研究していくこと(「アーカイヴ研究」)を目指しています。また、このような資料群は、歴史的な過去への眼差しをもたらすだけではなく、過去を経由して新たな活動を開始するための未来への眼差しをも包含するものです。
この20余年の間にアーカイヴを取り巻く状況は大きく変わりました。現在ではいたるところでアート・アーカイヴに関する取り組みが見られるようになっています。2020年春現在、様々な形で当アーカイヴが所管している資料体は、以下です。近年、取り組んでいる活動の一つに、アート・センターを最終地と想定しない資料の一時受入れ、研究、プロセッシングがあります。それらは資料整理や部分的公開などを通し、いずれ、より相応しい場所に到達するまで、その資料体が埋もれずに生命をつなぐための活動です。現在における価値の大小を問わず、多様な資料群を生き延びさせること、それが人間の根源的な営みのひとつである歴史を紡ぎ、過去と未来へと思考を投げかけ続けることを可能にするための要件であり、アーカイヴが担うべき使命のひとつではないでしょうか。
アート・アーカイヴの各コレクション
土方巽(高井富子・池宮信夫・石井満隆・辻村和子・副島輝人・吉本隆明に関する資料体を含む)、ノグチ・ルーム、田邊光郎/『役者』、瀧口修造、油井正一、慶應義塾の建築、西脇順三郎、渋井清/春画研究、草月アートセンター、峯村敏明、飯田善國、中嶋興、VIC(Video Information Center)