映画の/と時間 その4 アレクサンドル・ソクーロフと悠久の時間
気が遠くなるような緊張が持続する長いワンカット、限りなくモノクロに近いくすんだ色彩、幽かに遠い潮騒や汽笛、沈黙と聞きまごうひそやかな音楽、呟きのようにくぐもった声たち、梢や草原を揺らせて吹き抜ける一陣の風、そして不可視の力に押しひしがれたかのように歪んだ顔……それらがいざなうのは痛苦の果ての恍惚か、はたまた精神(こころ)の原風景か。
ドライヤーやブレッソンに並ぶ、魂の映像作家ソクーロフの世界。それは我々の内なる宇宙へと開かれた入り口なのかもしれない。
2001年12月18日
於:三田キャンパス 北館ホール
上映作品: 「マリア」
パネラー
- 沼野充義(東京大学文学部助教授)
- 前田英樹(立教大学文学部教授)
司会:橋本順一(慶應義塾大学商学部教授)
主催
- 慶應義塾大学アート・センター
- 映画理論研究会
アレクサンドル・ニコラエヴィッチ・ソクーロフ プロフィール
1951年イルクーツク生まれ。ゴーリキー大学卒業(1968)後、モスクワの国立映画学校修了(1978)。レニングラード・ドキュメンタリー・スタジオおよびレンフィルムで仕事をするが、その作品は87年まで旧ソ連下で公開禁止となる。日本では92年の「レンフィルム祭」で初めて紹介され、一躍名を轟かせる。現ロシア政権下でも困難な資金繰りにもかかわらず、精力的に製作活動を継続している。「オリエンタル・エレジー」(1996)「ドルチェ—優しく」(1999)をわが国で製作するなど、日本への関心も深い。