クリエイティブ産業研究:講義記録
1.8 デジタル・ミュージック 今野敏博(レーベルモバイル(株) 取締役 代表執行役社長)
レーベルモバイルは国内の大手12のレコード会社をはじめ多数の企業が協力してひとつの会社を作っている世界でも珍しいスタイルの会社である。
現在、コンテンツ産業は100年に一度の変革期に直面している。映画や音楽、ゲーム、本などコンテンツの種類が豊富であるのと同様に、届ける方法も多様化している。音楽でいえばCDなどのパッケージ、インターネットによるPCへの配信、「着うた®」や「着うたフル®」などの携帯電話への配信、ラジオなどの放送があり、パッケージと配信がコラボレートしている状態にある。さらに映画やゲームなどには、映画館やゲームセンターによる拠点サービスがある。(現在、手薄な音楽における拠点サービスは、今後発展の可能性をもっている分野といえる。)
音楽は「感性×テクノロジー」でできている。音楽は常にテクノロジーと密接な関係にあり、テクノロジーの進歩は音楽を変えてきた。1877年にエジソンが蓄音機を発明し、1887年にそれまでの円筒型より扱いやすい円盤型レコードが発明され、約100年後の1982年にソニーが世界初のCDを発売し、たった6年後の1988年にはCDの売り上げがLPレコードの売り上げを超えている。また、1925年にマイクができ録音方法が変化し、1941年にエレキギターが、1979年にスクラッチができるプレイヤー「SL1200MK2」が登場した。エレキギター「レスポール」が無ければロックは生まれ得なかったし、「SL1200MK2」がなければDJ文化も生まれなかった。音楽の発達は記録方法や録音、演奏、編集機材の発達と密接に関わっている。
日本の音楽産業のうち(コンサートなどの売り上げなどを除く)レコード産業は、デジタル音楽配信とパッケージ販売を合わせて約4千億円の規模を持っている。1990年代は1997年をピークとするカラオケブームの助けもあり、CDの売り上げが右肩上がりになり、1998年には音楽産業の総売上額がピークに達した。1999年からスタートした音楽配信は、早くも2006年にはCDシングルの売り上げを上回り年々増加している。日本の音楽配信は、携帯への配信が約90%(着うた®約25%、着うたフル®55%、その他約10%)であるのに対し、パソコンへの配信は約10%となっており、世界市場と異なり携帯配信が中心であるという特殊性をもつ。なお、「着うた®」は45秒以内で100~200円、「着うたフル®」は1曲200~400円で、ユーザーはF1層(20~29歳女性)が最も多い。音楽配信が増加しても、アルバムの売り上げはさほど減少しておらず、パッケージと配信が両立しているのも特徴的である。
世界で音楽配信に大成功した iTunes は、無料ダウンロードのソフトやiPodの発売、ネットストアの立ち上げ、マッキントッシュとウィンドウズ双方に対応した汎用性など、インターネットビジネスとしての特性をいかした展開をおこなっている。
1999年に i-modeがスタートし、2001年にdocomoは他社に先駆けてPHSによる音楽配信をスタート(M-stage music)したが、ダウンロードに1曲16分以上もかかり、普及には至らなかった。一方、auではレコード会社の提案の元、着メロが流行していた当時の流れを汲んで、曲の一部を使った「着うた®」のサービスをスタートさせた。当初、高値が問題となった通信料も、定額制を導入したことで普及を後押しした。
日本の携帯配信音楽の成功の背景には、課金システムの工夫や通信環境に沿った遅すぎず早すぎずのサービス提供(着うた®→着うたフル®への流れ)など、携帯電話会社とレコード会社との協力による技術とビジネスモデルの模索がある。2009年度には、携帯端末の買い替えにより高機能に対応した機種が市場に増えることで一層の利用が見込まれる。また、デジタル音楽配信は、パッケージが無いため在庫を持つ必要が無く、リリースにも時間がかからないため、リスクも小さくバリエーション化が可能でWindowingの活用などの利点がある。音楽配信は、アーティストの音源が完成した後、宣伝とともにパッケージの発売に先行した「着うた®」の配信、プロモーションビデオによる宣伝開始にあわせた「着うたフル®」の配信、CDシングル発売とPC配信、雑誌などのメディア取材や番組出演とビデオクリップの配信をふまえ、アルバム発売など、ひとつのコンテンツの受容形態を多様化し、このようなマルチユースにより音楽ビジネスのモデルを拡充している。
質疑応答
- Q.昔のテクノロジーは音質のためにあったが、今は流通(distribution)のためのテクノロジーのように見える。配信側はどう思っているのか。
- A.たしかに、これまでの技術は流通(distribution)のためにあったが、これまでも音質をおろそかにしようとしたわけではなく、技術の限界があったためである。技術の進歩により高い音質を実現できるようになった現在は、アーティストが追究している音質を再現する取り組みも進んでいる。例えばauでは、これまでの約7倍の容量で携帯へ配信する「着うたフルプラス™」というサービスをはじめている。
- Q.コンサートの売り上げが向上しているように、ライブの音楽体験が重視されてきているが、体験に対し会社として特に取り組んでいることはあるか。
- A.体験することはとても重要だし、消費者は聴いたことがない音楽を買わないため(方法は検討中だが)どこかで聴いてもらう機会をつくる必要がある。
「レーベルモバイル(株)」は2009年2月1日に「(株)レコチョク」に社名変更しました。