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トップページ設置講座クリエイティブ産業研究講義記録08.12.18 講義記録

クリエイティブ産業研究―音楽コンテンツを中心に― (社団法人日本レコード協会寄附講座)

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クリエイティブ産業研究:講義記録

12.18 アニメ・キャラクタービジネス 星野 康二((株)スタジオジブリ 代表取締役社長)

 20世紀の初頭、アニメーション会社を設立したウォルトデイズニー氏は、ディズニーのシンボルとなるキャラクター「ミッキーマウス」誕生の成功から様々なビジネスを展開し、ディズニーを大きく成長させた。現在、全世界で約十数万人が働き、4兆円規模の売り上げをもつディズニーは、以下の4つの分野で構成されている。

(1)映画ビジネス:キャラクターを創造する
(2)マーチャンダイズビジネス:キャラクターをもとにした多様な商品化
(3)ブロードキャスティングビジネス
(4)テーマパーク/リゾートビジネス

 ディズニーは、ミッキーマウスをノートの図柄にしてキャラクター使用料を得て商品化権ビジネスを始めた他、テーマパークの資金をスポンサーからの融資で充実させる手法など、それまで誰もやらなかった複数の事業を展開して大きく成長した。創設者のウォルトが亡くなると興行的に成功する作品が激減、業績は低迷し、ついに80年代初頭には買収されそうになった。しかし、ディズニーのコンテンツを愛する人々の支援、新たな長編アニメのヒットによりマイケルアイズナー氏が会長に着任した後のディズニーは危機を乗り切りさらに成長した。成功の要因は、アニメのヒットに加え新規ビジネスの成功にある。ディズニーは、80年代初頭からビデオの一般販売事業を立ち上げ、キャラクターグッズ販売のためにディズニーストアを展開、また、ディズニーチャンネルで有料TV放送事業を開始するなど、いくつもの新しいビジネスモデルを確立した。  
 ウォルトデイズニーが長編アニメ映画「白雪姫」の成功を手がかりに次の作品を、またその成功を手がかりに次の作品をとアニメーション制作を継続したことで代表されるように、ディズニービジネスが80年間成功を続けている理由は、新しいコンテンツ製作に投資(人やお金)を惜しまなかったことにある。ちなみに、東京デイズニーランドにはディズニーが直接出資したわけではないが、運営会社となったオリエンタルランドが舞浜地区に行ったインフラ整備、アトラクションの開発投資総額は1兆円を下らないと言われている。  
 スタジオジブリ(以下ジブリ)とディズニーの関係は15年前、当時ビデオレンタルのみの展開だったジブリに、ディズニーでビデオ販売に携わっていた星野氏がジブリ作品の一般販売強化を持ちかけたことにはじまる。関係の進展は、ジブリが「もののけ姫」の映画興行を海外で行うにあたり、世界に基盤をもつディズニーの協力を得られないかともちかけられ、交換条件としてジブリの全作品をディズニーがビデオ化し、販売するという現在の提携につながった。その結果、ビデオ「となりのトトロ」は発売時に100万本を売り上げ、その後現在までに累計で300万本を越える大ヒットとなった。
 ディズニーとジブリは大きく異なる。ディズニーは既に全世界で高い人気とブランド力をもち、売り上げにおいても絶大な規模を有する。しかし、ジブリは企業として小規模であるがジブリのアニメ作品は多くの好感、支持を集めている。1年間で入場者を60万人に制限する三鷹の森ジブリ美術館の経営に見られるように、ジブリが目指しているのはディズニービジネス同様の進化ではない。創業者達が元気に活躍するジブリは、いまだ進化の過程にある。ディズニーとジブリはお互いにリスペクトしあう関係にあり、宮崎駿はディズニー/ピクサーアニメーションの責任者であるジョン・ラセターが尊敬する人物である。高いクリエイティビティに加え、ビジネスの部分を鈴木俊夫という優れたプロデューサーが支えてきたのがジブリである。

質疑応答

Q.これまでの人生にあった様々な経験を現在の経営に生かすときに心がけたポイントは何か。
A.粘り強さ。失敗しても次に向けてがんばること。自分はキャリアプランをあまり具体的にもてない方だったが、目の前のことを精一杯がんばってきた。キャリアプランはあったほうがいいが力もないと駄目で、自分にとってディズニーで踏んだ場数が絶大な力になっている。強い気持ちを持った人は社会が必要としているので大切にされる。
Q.計画して勝ちとった成功と、偶然の成功とではどちらが大きいか。
A.数としては組織に属していれば計画しての成功の方が多くなるのではないだろうか。意味においては自分の人生に関わるような成功こそが、数に関わらず重要だと思う。しかし、ジブリとの提携の時にあった偶然の一致(coincidence)かのような成功も、自分で作ったきっかけの結果である。
Q.アニメ業界における日本と世界の違いについて伺いたい。
A.ハリウッドが確立した莫大な予算で制作して世界中で巨額の収益をあげるビジネスモデルは、そもそも日本の映画のマーケットと世界のマーケットが異なるため日本には適用できない。しかし、今後については分からない。今、ハリウッドが日本の原作で映画を何本も制作しているが、どんなものが完成し、どう評価されるかによってこの先どうなっていくかが決まるだろう。宮崎駿は自分にとって身近な世界に根ざした作品作りをしており、違う文化圏の人にも喜んでもらえるとうれしいが、そのために作られた作品ではなく、そもそもビジネス的な成功を最重要と考えていない。