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トップページ設置講座クリエイティブ産業研究講義記録08.12.11 講義記録

クリエイティブ産業研究―音楽コンテンツを中心に― (社団法人日本レコード協会寄附講座)

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クリエイティブ産業研究:講義記録

12.11 ゲームビジネス 稲船 敬二((株)カプコン 常務執行役員 開発統括本部長兼オンライン事業統括/(株)ダレット 代表取締役社長)

カプコンは世界で売れるソフトを作っている。人気タイトルは、シリーズとして長い年月の中でハードを変えながら発売され、さらにはゲームのストーリーや世界観をもとにした映画が制作されるなど、コンテンツの活用が行われている。プレイステーション用ソフトとして発売され、当該ハード初のミリオン販売数を記録したカプコンの人気ソフト「バイオハザード」は、これまで3本の映画が制作されており、「ストリートファイター」は2009年2月に映画が公開される予定だ。この他、「クロックタワー」、「鬼武者」、「ロストプラネット」などの映画化が決定している。

カプコンは90年代初頭、絶大な人気を博した「ストリートファイターⅡ」の成功により東証一部に上場した。「ストⅡ」とよばれた1本のゲームソフトでビルが一棟建って余りあるほどの売り上げを成し遂げた要因は、日本に限らず全世界で売れたことにある。25年前、任天堂が発売した「ファミコン」により、ファミリーコンピューターゲームを産業とする先見をつけたのは日本だが、世界で人気を得なければ、より大きな売り上げを見込めない。産業が誕生した当初、日本は小さな容量で工夫したゲームを作ることを得意とし、「アタリ」などゲーム会社の先達をもっていたアメリカよりも優れたゲームを生み出した。その「ファミコン」から、「スーパーファミコン」へ容量を拡大、さらに3D技術を取り入れた次代のハード「プレイステーション」、「プレイステーション2」、マイクロソフト社のハード「Xbox」、「Xbox360」など海外企業の参入と、技術の進歩とともに世界の競争力が増している。3Dの技術を駆使した映画を制作することとゲームの制作は近い関係にあり、ハリウッドの高い技術力がゲームの世界においても威力を発揮し欧米の力を押し上げた。技術力や人への評価も日本より欧米の方が高い。日本に比べアメリカや中国ではヒットが出た際のクリエイターへの見返りが大きい。ゲームやゲーム製作者への評価の低さは、現在の日本と海外の差を生んだ理由のひとつと考えられる。稲船氏も実際に、実在の俳優をモデルにキャラクターを作り結果的には100万本を超えるヒット作となった「鬼武者」の出演交渉で、映画ではないと知った途端に断られるという経験をした。夢が無ければゲームクリエイターになりたい人も減り、産業も盛り上がらない。

日本のゲームユーザーは鎖国的な嗜好をもっている。カプコンの「モンスターハンター」は日本で人気のソフトだが、世界ではそうではない。国によって嗜好の傾向があり、日本はRPG(ロール・プレイング・ゲーム)の人気が高いが、アメリカではシューティングゲームが主流を占めている。欧米で150万本を売り上げた「ロストプラネット」は、カプコンの海外戦略として作られたソフトである。世界で売れるソフトにするため、シューティングゲームの趣向と、日本のオタク文化を代表するロボットの要素をミックスしてオリジナリティのあるゲームとした。

ゲーム産業は不況に強い産業といわれている。湾岸戦争の影響で世界の経済が冷え込んだ際にも、ゲーム産業は落ち込まなかった。この度の不況も前年比増か、同等である。

カプコンには約2000人の社員がいる。その中で、クリエイティブに携わるのは600~700人と、全体の半分以下である。クリエイティブは発想だけでは成り立たない。お金を稼ぐことは企業の必然で、好きじゃないこともやらなければならないことがある。その中で、どのようにやりたいことを実現し、成功を得るか。お金のためだけでもクリエイティブはできない。好きでなければユーザーに伝わる作品は作れない。良くも悪くも作り手の心意気はユーザーに伝わってしまうものだから、ゲームを好きであるということが重要で、良いアイディアを伝え世に出すためには、勇気を持って周囲に伝え、眼前のハードルを越えることが必要となる。

質疑応答

Q.表現のリアルさの限界についてはどう考えているのか。
A.倫理、レーティング(Rating)の問題は常にある。日本は理由があろうと無かろうと血が出るとダメだが、リアルの捉え方にもいろいろあり、血が出る表現は表面的なもので、「なぜ殺すのか」という理由、言葉にならない部分で何を言い、伝えたいのかがより大切だと考えている。レーティングがもっとも厳しいのはドイツだが、その基準は血が出るか出ないか、人を殺すか殺さないかではなく、なぜ殺すのか、どういう理由があるのかを含めて判断される。
映画ではPG13以下にすると、よりたくさんの入場者数が見込めるが、バイオハザードでは作品のクリエイティビティを重視した。
Q.アメリカのゲームの方が、本質以外の遊びの部分の演出が細かいのはなぜか。
A.そもそも西洋人と日本人の考え方が違うことに起因する。ゲーム制作者のクリエイティブの時間のかけ方に西洋と東洋の違いがある。日本人は生真面目で、精密に作ることに力を注ぐ傾向がある。優れた能力ではあるが、遊びの演出設定をするよりも時間がかかる作業をしている。もっと演出も取り入れられると良い。