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クリエイティブ産業研究―音楽コンテンツを中心に― (社団法人日本レコード協会寄附講座)

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クリエイティブ産業研究:講義記録

12.4 放送ビジネス 砂川 浩慶(立教大学社会学部 准教授)

約150年前から、電波の利用は有線(電話回線など)から無線へと技術的進歩を重ねている。技術的発展をむかえた時、新たな技術の進歩に加えて、きっかけとなる事件や歴史的できごとがあった。タイタニック号の沈没が無線の有用性を知らしめ、第一次世界大戦では戦場での伝令が人から無線へと変化した。

19世紀末から20世紀にかけて、世界的に有線同報電話が注目され、1893年にハンガリーのブタペストで現在のテレビやラジオのような番組編成をもった番組「テレフォンヒルモンド」の放送が始まった。現在に残っている当時の番組編成表から、「テレフォンヒルモンド」は、朝はニュースや天気予報を伝え、昼はワイドショー的な番組が放送されていたことが分かっており、100年前も現代も人は同じように暮らしていた様子が伺える。放送の定時同報、例えば目覚ましのように、同じ時刻に同じ番組が放送され、多くの人がその情報を入手できるという事実は、人の生活と関わる放送においては大切なポイントである。また、ラジオやテレビが家具調にデザインされリビングの主役となったことは、メディアが生活の一部になり一般化したことを示している。

通信としてのラジオ(無線という技術)から放送としてのラジオ(メディアを示す単語)として番組伝送が世界各国で始まったころ、テレビの開発が始まった。TVと略されるテレビジョンは、tel(遠く)+vision(見る)の造語である。当初、1920年代にテレビを積極的に利用しようとしたのは、1936年のベルリンオリンピックの前にテレビ放送を開始したナチスドイツだった。放送は、現在も国家イベントとの関係が深く、メディアの発展には政治的プロパガンダやイベントとの関係性が深い。

―歴史、政治へのメディアの影響―
 われわれが終戦記念日として記憶している日は8月15日だが、実際には国際法上はポツダム宣言を受諾したのが8月14日で、降伏調印が9月2日だった。国が降伏を表明した日では無く8月15日が終戦記念日になった理由は、ラジオで玉音放送があったため、日本が占領していたアジアも含めて、その日が記憶されたのである。

日本のテレビ放送開始にも政治的イベントとの関係がある。1925年3月22日、東京放送協会(JOAK)が普通選挙を報道するために放送を開始した。当時は今と異なり、放送の内容は国が決め、放送局が自由に番組を決めることはできなかった。1950年に電波三法が施行され、特殊法人日本放送協会へ移行し、1953年に現在のテレビ放送の歴史が始まった。ちなみに、日本で最初のCMについては日本民間放送連盟の「コマーサル君」のサイトで紹介されている(http://www.enjoy-cm.com/library_1950.html)。政治主導によって、1975年、全国紙系の新聞社と、東京・大阪の放送局の系列化が行われ、腸捻転の解消といわれた。新聞社とテレビがつながっているのは日本の大きな特徴である。1984年、ロサンゼルスオリンピックに間に合わせるため、世界ではじめてBSの試験放送が行われた。

1989年にBS放送が開始され、1991年にCSアナログ放送、1996年にCSデジタル放送(スカパー)が、2000年にBSデジタル放送、2003年に地上デジタル放送、2006年に地上デジタル放送の全国化がおこなわれた。2011年にアナログ放送から地上デジタル放送への完全移行が計画されている。

地上デジタルへの移行は改正電波法に基づき進められている。周波数は国が管理し、割り当てているが、現在は周波数をフルに使用している状態にある。デジタル化には、現在使用している周波数を整理し、空いた領域を活用する目的がある。しかし、デジタル化に関わる諸問題は多い。

放送は国によって異なり、大きく2タイプある。アメリカのように商業放送が多く、公共放送が少ない国と、ヨーロッパやアジアのように公共の放送が多い国である。日本のように公共放送と民間放送が並列している国はめずらしい。(放送に関しては『データーブック世界の放送』に詳しい。)

日本は20年間で広告費が約2倍に膨らんでおり、テレビは特に顕著である。日本の放送産業の規模は約4兆円で、おおよそ400チャンネルあり、民放連の加盟社はラジオとテレビ合わせて202社ある。地上の民放テレビは5つの系列を中心とし、キー局がローカル局に契約に基づいて番組を供給することで成立している。系列はニュースでの協力をベースにしている。

NHKが5年ごとに行っている生活時間調査によると、日本人は1日平均3時間39分テレビを見ている(2005年)。世代や性別など個人差はあるが、他国と比べると日本人はテレビ好きだといえる。信用できる情報提供とメディアとしての権力の監視が今の放送局にできているのかなど重要な問題はあるが、テレビが担う娯楽の役目は大きい。テレビで知って、ネットで調べることが多々あるように、目標を定めて使用するインターネットと異なり、テレビは出会いのメディアである。テレビとインターネットの相性は良く、ドラマのネット配信の開始などコンテンツとしての活用も広がっている。

質疑応答

Q.ユーチューブなどのように個人の嗜好で選択して受容する傾向が強くなっているように思う。放送界への影響はないのか。
A.マスメディアの役割の一つは、国民全体に関わる問題を伝えていくことだ。インターネットだけでは、自分の関心だけになり、社会との関係が希薄化する。一口に情報といっても、それを取材し確認することは大変な手間がかかることであり、その労力を軽視して、情報が何でもタダで手に入ると考える風潮には懸念を覚える。
Q.今後、経営上の理由によるテレビ局の再編はあるか。
A.キー局レベルではないと予想するが、持株会社化などで新聞社など別のメディアとの合併はあり得る。最も心配なのは、デジタル投資や広告不況によって、自ら番組を作らない放送局が増えることだ。経営的には番組を買って流すほうが効率的だが、それでは放送局の役割を果たせない。