クリエイティブ産業研究:講義記録
11.13 映画ビジネス 迫本淳一(松竹(株)代表取締役社長)
はじめに、迫本氏からみてユーザーである学生たちへ質問が投げかけられた。結果、ここ1年間に劇場で映画を10本以上観た人と、1度も観なかった人が最も少なく、劇場ではなくDVDで5本以上観た人が一番多く、受講者の半数近くの手が上がった。また、邦画と洋画では邦画を観た人の方が多かった。つまり、劇場よりもDVDを利用しており、洋画よりも邦画を観ている学生の実態が明らかになった。迫本氏によると、これが今の日本の平均的な受容だという。松竹の特色でもある「歌舞伎を一度でも観たことがあるか?」の質問には「ここ1年間に劇場で映画を5本以上観た」人数と同数くらいの手が上がった。
プロフィールとしてNHKの番組「経済羅針盤」の一部を鑑賞した。
松竹(株)の映画代表作には、1969-95年にかけて48本も制作された「男はつらいよ」、「釣りバカ日誌」などの長期人気作品がある。しかし、「男はつらいよ」が終了し、松竹(株)の経営が悪化し、1990年代後半には700億円の赤字を抱えていた。早急な対策を必要とした松竹(株)は赤字のテーマパークを閉鎖するなど債務を圧縮した。対策は、上映システムの改変や上映期間のコントロール、海外作品の配給など、作品の制作だけではなく、届けることの改革、制作本数の絞込みとヒット作を生み出す努力などを重ねた。その結果、1998年に15万人だった入場者数が、たった5年で35万人に拡大し、ヒット作も生まれ徐々に経営が改善された。
安定して会社を経営するためにもヒット作を作り続けなければならない。映画には、「良い映画で儲かる映画」、「良い映画だけれども儲からない映画」、「儲かる映画だけれども良くはない映画」、「儲からないし良くもない映画」の4種類あり、会社の経営としては儲かる映画を作り安定しなければならないけれども、4つめ以外は作り続けたいと考えている。映画はチームで作るものだから、継続することが力になる。儲かることだけでなく、「良い映画だけれども儲からない映画」も作り続ければ、「良い映画で儲かる映画」につながっていく。
日本の映画配給に関して、邦画は、東映、東宝、松竹などが企画から製作、配給・宣伝まで行うが、洋画は、日本にも現地法人を持つフォックス、ワーナー、ディズニー、ソニーなどのメジャーと、インディペンデントでシステムが異なる。アメリカでは製作資金を得るため、資金を持たないプロデューサーが製作前から海外に配給権を売ることがある。日本では買い付けや映画製作のリスクヘッジとして、協力企業を募って作品を買い付けたり、製作出資委員会を作り映画製作の資金を調達したりしており、出資企業にはメディアとして力を持つテレビ局が多い。[参考]
質疑応答
- Q.アメリカにおける日本のコンテンツの利用や日本の映画ビジネスの取り組みについて。
- A.日本の今後の映画ビジネスの取り組みとして、素材を探すためにも漫画やゲーム、音楽などいろいろな業界とネットワークをもっていくことが重要となる。才能を持った人は多いが、それに対してビジネスの才能を持った人が不足している。
- Q.海外との契約や法律に関して日本では教える先生が少ないように思うが。
- A.エンターテイメント・ロイヤーにおいて優秀な人は日本にもたくさんいるが、アドヴァイスだけでなくビジネスの中に入りリスクをもとりながら判断し、成功した場合にはより多くの報酬を得るプロデューサー的に活躍する法律家がいない。
- Q.シネマコンプレックスなど映画館をめぐる環境が変わってきていることについてどう考えるか。
- A.昔、映画館は大都市にあったが、地方に、車で訪れるショッピングモールが展開されるようになりシネマ・コンプレックスが作られるようになった。さらに近年は、車の利用が減り、電車で訪れる都会のシネマ・コンプレックスの方が地方よりも経営がよくなっている。