アート・センター主催イベント 瀧口修造アーカイヴ 土方巽アーカイヴ ノグチ・ルームアーカイヴ 油井正一アーカイヴ

contents

トップページ設置講座クリエイティブ産業研究講義記録08.10.23 講義記録

クリエイティブ産業研究―音楽コンテンツを中心に― (社団法人日本レコード協会寄附講座)

サブメニュー

クリエイティブ産業研究:講義記録

10.23 音楽産業総論 石坂 敬一((社)日本レコード協会 会長)

アメリカに次いで第2位の音楽産業規模を有し、全世界のパッケージ音楽市場においても、アメリカ(32%)についで20%の売り上げを占める日本は、経済的にも文化的にも音楽ファン層の厚い国といえる。世界の国民所得総和のうち日本が占める割合は15%で、音楽市場割合は所得比率を上回っている。

10.23 音楽産業総論 石坂 敬一((社)日本レコード協会 会長)

日本でここまで音楽産業が発展した背景には、二者択一(あれかこれか)ではなく和の精神をもって異なるものを両立させる文化的伝統(あれもこれも)がある。古来から音楽が幅広い身分・階級において享受されてきたこと、またアジア圏からの輸入音楽と日本古来の音楽を並立させ、宮廷雅楽、武士の能楽、民衆の歌舞伎など、多様性のある文化を発展させてきたことは、この伝統の賜物と言える。さらに、明治以降に急速な近代化を遂げたことで経済力、文化力を備えたことが、現在の日本の音楽産業発達ベースとなっている。

日本の音楽産業の歴史は、初の商業的なレコード会社(株)日本蓄音器商会(現コロムビア ミュージック エンタテインメント(株))ができた1910年に始まる。現在、世界ではパソコン配信音楽ビジネスが拡大しているのに対し、日本では携帯への音楽配信など発達したモバイルビジネスやCDレンタルなどの特化したビジネスモデルがある。国内の音楽(邦楽)が市場の70%以上を占める日本で、独占禁止法の適用を受けずに販売価格を決めることのできる再販価格維持制度は、産業を維持する上で非常に効果を発揮している。さらに、海賊版や違法配信によりパッケージ・ビジネスが縮小し、世界の音楽産業が急速に疲弊する一方で、日本だけが毎年、前年度とほぼ同水準で市場規模を維持できるのは、音楽配信などの急成長するデジタル・ビジネスやコンサートなど音楽ソフト(CD)からの波及ビジネスにより支えられているためである。日本は海外市場に比べ、違法配信や海賊版などの違法行為が少ない。しかし、アメリカのナップスターの経緯にみることができるように、一度無料で手に入れることができるようになった音楽データを購入させるようにすることは大変困難だ。また、違法配信は若いアーティストの作品が多い。レコード会社やアーティストにお金が入らなければ、新人も新曲も出にくくなり、ひいては日本の文化が衰退してしまう。さらに、今後、パッケージとデジタルの比率は予想よりも早く移行する可能性もある。70:30の比率で落ち着くことが理想的だが、0:100になれば産業が死滅してしまう危惧がある。

(社)日本レコード協会は、デジタル時代のさまざまな環境や問題を解決するために活動している。レコード産業の振興のため、TVスポットや新聞広告、関連産業への訴えかけを行い、啓発と世論の形成をおこなっている。

10.23 音楽産業総論 石坂 敬一((社)日本レコード協会 会長)

質疑応答

Q.パッケージが無くなることが無いと言い切る根拠はなにか。
A.ネット配信による音楽受容は若い世代が中心で、年齢の高い層では、CDやカセットテープを利用している。これからの少子高齢化社会で、パッケージは必要なメディアであり、所有を可視化するものだからである。
Q.違法なファイル交換やダウンロードが正規の音楽配信で購入される数を上回り、大きな損失を受けているとのことだったが、本当にすべて損失なのか。多少は購入の入り口になっているのではないか。
A.CDレンタルが出た時にも、音楽が安く利用されているという考えと、むしろ広く利用されることで消費が拡大するという対立する考えがあった。どちらとも言えないが、レコード産業全体では損失の方が大きかったように思う。違法ダウンロードについても同じことがいえる。小さな事例だけではなく、全体として考えるならばすべて損失である。