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トップページ設置講座クリエイティブ産業研究講義記録08.10.16 講義記録

クリエイティブ産業研究―音楽コンテンツを中心に― (社団法人日本レコード協会寄附講座)

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クリエイティブ産業研究:講義記録

10.16 音楽プロダクションの機能(アーティストの発掘・育成) 大石 征裕((社)音楽制作者連盟 理事長)

 音楽プロダクション約630社で構成される音楽制作者連盟(以下、音制連)(http://www.fmp.or.jp/)は、著作隣接権の擁護と拡大を掲げて、各種権利の管理運営(徴収・分配機能の管理)を行い、アーティストやミュージシャンなどの実演家約7,000名を超える人々の権利を支援しています。

 1981年に、メタルバンド「44MAGNUM」のマネージメント・オフィスとして起業したマーヴェリック・ディー・シーでは、マネージメント業務、音源や映像の制作、出版権の管理、アーティスト関連グッズの制作販売、コンサートの興行、チケット販売等々の業務を行っています。このように最近のプロダクションの業務内容は、アーティストのマネージメントに限らず、レーベルの運営や原盤制作、著作権・著作隣接権の管理など多岐にわたり所属アーティストのサポートをしています。業務内容が多様化すれば、当然会社としてのリスクも増加します。
 アーティストは、音楽で才能を発揮することで生活をしています。マネージメント・オフィスとしては、ひたすら事業展開を進めるしかない状況の中で、自ら、ライヴコンサートを企画し、メディアで取り上げてもらうように努力するなど、プロダクション業務全般やアーティストを育成する方法を自らの力で学んできました。プロダクションを立ち上げ音制連の理事長を務めるまでの道筋には、私自身の音楽経験が生かされていると思います。

 アーティストを「子供達」とするなら、レコード会社は「お父さん」、マネージャーは「お母さん」というような関係にあると思います。アーティストが育ち売れるためには育成資金が必要ですから、お父さんがお金を用意し、それを使ってお母さんが子供達の世話をし、育成するのです。アーティストが売れるためには、お父さんが良い稼ぎ手であり、お母さんと子の関係が良いことが不可欠です。この三者の関係が良いことが「子供達」が大きく成長する秘訣でもあります。レコード会社は、アーティストが売れた資金を元手に残し、次の子供達=新人アーティストを発掘し育成していきます。
 アーティストとの出会いには色々なケースがあります。プロデューサーが曲を提供する場合、企画ありきでアーティストを開発し、育てる場合。その他にも、レコード会社やマネージャーが見つけることもありますし、偶然出会うこともあります。L’Arc-en-Ciel(以下、ラルク)との出会いは、所属バンドのヴォーカルを探すために聴いたデモ・テープでした。当時、まだ会社の資金は少なかったのですが、私自身がもつ技術的なスキルを生かして、マネージメント兼エンジニアとして制作(レコーディングやジャケットなどパッケージ作品を創る)段階から宣伝までを行い、ラルクをインディーズという形でデビューさせました。まもなく好評を得たラルクは、大手メジャーレコード会社から声をかけられる存在となり、ソニーミュージック・エンタテインメントと契約しました。その後も人気は勢いを増し、2枚組みのアルバムをイニシャル(初回出荷数)で約600万枚を売り上げるなどさらなる成功を収めました。私は、この時に得た資金を活用して、「人がやらないことをやろう!」と大規模な野外ライブを企画しました。大きな足跡を残しましたが、大きな赤字も残す結果となってしまいました。

現在、日本のロックやホップスは、世界各地で人気が広まっています。日本のオタク文化が世界に浸透し、アニメの需要が拡大したことによってアニメ番組のエンディングで日本の曲が視聴され、その結果、アーティストの認知も高まっているのです。このことはアジア諸国やヨーロッパで公演を行うラルクに限らず、他のアーティストでも同様の現象が起こっています。今や、音制連に限らず、業界全体が海外マーケットへの進出を視野に入れて活動しています。
 また、海賊版や違法配信行為により、世界的に音楽業界が疲弊している昨今、日本は業界全体が権利を守るため懸命に努力し、CDの売り上げを維持しています。レコード会社やプロダクションがアーティストを育てるために投じた資金を回収できなければ、新人アーティストを発掘、育成して世に送り出すこともできません。その為には、縮小しつつあるパッケージ販売以外の方法、たとえば、売り上げの伸びているコンサートチケットの販売に収益を求めるなど、プロダクションはアーティスト・マネージメントだけでなく、アーティストを中心にした360度ビジネスの展開を意識しているのです。レコード会社とプロダクションの業務内容が近づきつつあり、マーケットと構造の変革が進んでいる中で、問題は個々の会社に限られません。収録音源のデータ保存にかかるコスト―たとえば1作品で約50ギガのデータを有するアルバムの保存場所を業界で統一したアーカイブとするのか、個々で所有し続けるのか―など、業界全体で解決すべき問題が様々にあるのです。このようなデジタル変革の時代を迎えて、音楽業界は優秀な人材も不足しており、業界全体として後継者育成が重要な課題となっています。是非、志をもった若い方々に音楽業界を目指して頂きたいと思います。

質疑応答

Q.今、世界で受容され勢いのあるビジュアル系のカルチャーと今後についてどのように考えますか。
A.ビジュアル系の源流は1978年頃からあり、少女マンガの世界に存在するような格好をした人々が西洋の楽曲を演奏したのが始まりです。その後テレビなどの影響で起きた一時的なブームが去ったあともファンは残り、ひとつの音楽シーンとして定着しました。ジャンルに縛られない楽曲の自由さがある点が、世界各地で受容される要因となっています。
Q.ラルクを売り出した当初、どのようなところに気をつけてプロデュースしましたか。
A.楽曲のアレンジとルックスの良さを大切にした。自分の好きなアーティストに似ていたヴォーカルの声など、私との嗜好の一致もあるので、今でもメンバー4人とともに良し悪しを決めています。ビジュアル系アーティストはお仕着せではなく自分自身でイメージや作品を作っていかないと売れ続けることができないと考えています。なので、アーティストが考えることを大切にはしますが、方向性の提案や作品の判断については、私自らがチェックしています。
Q.海外からみた日本はどのような市場として位置づけられていますか。
A.アメリカに次ぐ第2位の市場規模をもつ日本のユーザーは、「お金を使ってくれる国」と、消費者としてとても意識されており、アメリカのアーティストも意識してツアーのスタートやファイナルを日本で行うことが多いです。
Q.アメリカと日本の環境の違いはどうですか。例えば、アメリカのライブハウスはお酒を飲むついでに音楽を聴き、日本は音楽を聴くためだけにライブが行われライブハウスにはチケットノルマなどの縛りがあります。
A.日本には日本独特のライブハウス経営のシステムがあり、ライブハウスが、アーティストのサポートも行っているケースもあります。アメリカでは様々なことがアーティストの負担となっています。どちらのシステムが良いかは、分かりません。
Q.自分は来春より音楽業界の企業に入社します。やはり制作がメインのイメージがあるが実際はどうですか。
A.制作にはクリエイティブな才能が必要ですし、マネージャーにはアーティストとのリレーションなど、それぞれに適した素養が必要です。その他にも、宣伝や営業、ファンクラブの運営など様々な仕事があります。業界に入る人は多いのですが、残る人は少ないのが現実です。こつこつと仕事を積み重ねる持続力が必要とされるのかも知れません。でも、良い作品ができた時、頑張った後に売れた時、共に時間を過ごす喜び等、他の仕事では味わえない醍醐味がありますし、2次的には、収入も普通の人よりも増えると思います。ラルクのヨーロッパ公演については、アーティストの望みを叶えたという満足感もありますが、新しい成功例を示すことができたことで、音楽産業全体の活性化につなげることができたという意味が大きかったと思います。良い作品を創ること、働く人々の満足を充足すること、前例のないことに挑戦を続けること、こういった気持ちが大切だと考えています。
Q.今後の音楽業界について。
A.ビルも人も多すぎて現在は飽和状態にあります。ひとつのヒット曲では会社を安定して維持することができません。四半期ごとに税金の徴収がありますから、会社経営には中長期展望をもってヒット現象を続けてゆかなければならないという難しさがあります。
Q.日本のように、パッケージ商品に特化して世界的規模で売り上げを伸ばすことは可能ですか。
A.アメリカではディスク以外のケースの中身は捨てられており、印刷技術のすぐれた日本とは状況が異なります。DVD特典を付ける等の販売方法はひとつの成功例ではありますが、業界全体としての当面の課題は、違法ダウンロードを撲滅し、正当な収益を得られるようなビジネス構造にすることの方が急務だと考えています。