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トップページ設置講座クリエイティブ産業研究講義記録08.10.09 講義記録

クリエイティブ産業研究―音楽コンテンツを中心に― (社団法人日本レコード協会寄附講座)

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クリエイティブ産業研究:講義記録

10.9 音楽の創造 演歌からポップスまで 鈴木 淳((有)鈴木淳音楽事務所 作曲家)

 作曲家になる以前、早稲田大学在学中には四大学合同の合唱団で活動し、慶應義塾大学の学生とも親交を深かめ、後のダークダックスのメンバー(慶應義塾大学出身)らと一緒に替え歌などを楽しんでいた。作曲家としてのスタートは大学卒業後すぐではない。クラシック音楽の専門誌を出版する「音楽之友社」に就職した後、郷里にて女子高の教師となったものの作曲家としての夢を叶えるために再度上京し、再び「音楽之友社」に勤務して、新創刊の「ポップス」編集長となった後である。音楽之友社の人脈から映画音楽を作る作曲家としての活動の場を得るが、生業として生計を立てるまでにはもう少し時間がかかった。
 俳優の安藤昇氏との出会いにより映画音楽の仕事を出発点としてレコード会社などから作曲の仕事を得るようになり、レコード会社の他にプロダクションが原盤制作を行うようになると、プロダクションからも録音の依頼が入った。その初仕事が鈴木氏の代表作のひとつとなった伊東ゆかりの歌う「小指の思い出」であった。ヒットするにはヒットするためのいろいろな要素がある。一度心の中に入ったら強く残るのが音楽である。不意に聴いたことのある曲や歌を耳にすると、聴いた時の状況や記憶が呼び起こされることがあるように、音楽は一度人の中に入ると出にくいものである。
 ヒット曲は、目で見ることができない音楽を心の奥底に届け、記憶に残すことができたときに生まれる。大ヒットとなった「小指の思い出」も初版枚数は2,000枚と、当時のレコードの採算枚数としても最小数だった。それでも5万枚を売りたいと思い、そのために郷里の山口県の友人に依頼するなどして、レコード店やキャバレーで積極的にキャンペーンを行い、訪れる先々で「小指の思い出」をかけてもらった。まだ局地的ではあったが、すれ違う人がこの曲を口ずさんでいる状況となり、レコード会社の宣伝担当も勢いを増し、徐々に人気に火がつき、やがて大きな流れとなり100万枚を売り上げる大ヒットへとつながった。当時としては新鮮なフレーズ「あなたが噛んだ小指が痛い…」は人々の心の中に入り込み、あっという間に日本のあちこちで口ずさまれるようになった。
 こうして得た著作権使用料の3分の1を自身の報酬として得た。残りの著作権使用料は音楽出版社と、作詞家が3分の1ずつで分けている。音楽出版社は会社にとって重要な収入源である著作権使用による収入を絶やさないように、ヒット作の人気を保つ努力を行っている。曲のヒットから時間を経た今でも人々の心に残るフレーズ「あなたが噛んだ小指が痛い…」を利用し、パロディー化したCMが制作されてもいる。
 アーティストをプロデュースしながら曲を作ってきたが、作曲家には会社からもらう詞に曲を付けるだけの人もいる。歌手はヒットを重ねることで、ますます美しくなっていく。商品である歌手を磨くことは醍醐味のひとつである。これまでたくさんの歌手を育ててきたが、努力の他に偶然をきっかけとしてヒットが生まれることもあった。小川知子は、テレビの歌番組に出演中、歌いながら涙を流したことで強い印象を残し、放送後に歌が大ヒットした。また、ちあきなおみは芸能活動を休止しているにも関わらず、現在も音楽出版社に多くの収益を与えており、活動しないからこそ一層多くのCDが買い求められているともいえる。
 八代亜紀を売り出した当時はポップス歌謡と言われる曲を作っていたが、ポップスが溢れる時代の中で歌手を売るためにはその時に無い曲を歌わせようと思い、あえて演歌を書いた。曲は歌手を売るために作る。同じような歌を同じような歌い方で歌っている昨今の状況の中でも、自身でオーディションを行い、歌手その人の個性を引き出し、人の心に届ける歌となるように心がけている。

●プロフィール「鈴木淳の略歴」

質疑応答

Q.これまでの経験の中で限界を感じたことはあったか。
A.度々ある。多くの場合、作っている時は作品が受け入れてもらえるかどうか不安に感じながら進んでいる。最終的にOKを出すのはユーザーである。
Q.ラクシスについて。
A.まだ進めている最中だが、ラクシスについて実現したいビジョンはある。若い人たちに届けるために作っている若い人たちはたくさんいるが、僕自身が作る作品はそれらとは違うと思っている。デジタルなものだけではなくアコースティックなサウンドも大切にしていきたい。エイベックスにも私たちが捨ててはいけないサウンドとして提案している。