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トップページ設置講座クリエイティブ産業研究講義記録08.06.19 講義記録

クリエイティブ産業研究―音楽コンテンツを中心に― (社団法人日本レコード協会寄附講座)

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クリエイティブ産業研究:講義記録

6.19 音楽業界の世界的な潮流 スティーヴ マックルーア/Steve McClure(ビルボード アジア支局長)

音楽チャートで有名なビルボードは、日本がまだ明治時代の1894年、広告産業の雑誌としてスタートした。1940,50年代頃から音楽雑誌へと変化し、現在ビルボードの発信するチャートは全世界で一番影響の大きいチャートとなっている。

日本は世界の音楽産業で第2位の規模をもっている。ちなみに1位アメリカ、3位イギリス、4位ドイツ、5位フランスである。また、全世界にあるメジャーレコード会社は現在、1位ユニバーサル・ミュージック、2位ソニーBMG、3位EMI、4位ワーナー・ミュージック・グループの4社。フランスに親会社を、NYに本社を持つユニバーサル・ミュージック。元ドイツの出版会社BMGとの合併によりソニーBMGとなったソニーも同じくNYに本社を持つ。ビートルズのレコード会社として知られるEMIはロンドンに本社を持つ。ワーナー・ミュージック・グループはアメリカのレコード会社。昔はもっとたくさんの会社が存在したが、音楽の人気は上がっているのに売り上げは縮小し、産業自体が疲弊、レコード会社の数も減少、大手としては合併などにより現在の4社が存在する。このように変化した理由のひとつとして、ファイル交換ソフトの普及がある。アメリカでは10年ほど前からナップスターにより、CDよりも劣化したデータではあるがMP3というフォーマットで音楽データが交換され、CDの販売にダメージを与えた。続いて、ナップスターのサーバーへアップロードされたデータをダウンロードする方式から、ユーザー同士が直接データ交換することが可能なP2Pの登場により、さらに取り締まることが難しくなっている。ただし、P2Pは日本ではそれほど普及していない。

一般にはそれほど理解されていないことだが、音楽出版社は曲の著作権を持ち(作曲者と作詞者の)権利を守る組織で、レコード会社はレコードの原盤を作っている。そしてCDはHMVやタワーレコードなどレコード販売店が販売をしているが、NYのタイムズ・スクエアにあるヴァージン・メガストアが来年の1月に閉店するように、ナップスターなど違法ダウンロード、アマゾン(宅配販売、デジタル販売の双方を行っている)やi-tunes storeなどの音楽販売形態のデジタル化により販売店も減少している。しかし、音楽に詳しい店員のいる販売店の利用はとても楽しいことであり、この状況は残念でならない。一方、ライブ(コンサートなどの公演)に関しては、アメリカも日本もチケットの売り上げが伸びており、活気がある。

これまでの音楽の受容の変化をみても、80年頃からMTVの登場により、ラジオからテレビへと音楽の受容に革命が起こった。しかし、今でも特に車社会の北米においては、ラジオは重要なメディアである。このように、時代の変化だけでなく社会の違いによっても受容に差がある。多くが電車通勤の日本と違い、多くの人が車で通勤する北米やカナダでは、チャートの内訳も、60%がラジオ、40%がCDの売り上げである。

また、PCや携帯の普及、Eメディアの登場で音楽の広がり方にも、ラジオやTVなど既存のメディアに加え新たにミクシーなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などによる口コミで周知される形が加わった。その例に、マイスペースから火が付いたアークティック・モンキーズや、リリー・アレンなどがいる。アメリカのデジタル配信の割合は9 (PC):1(携帯)の割合だが、日本はまったく逆である。今、全世界的にi-podの売り上げが伸びているにもかかわらず、音楽の売り上げは落ちているという不思議な状態にある。このままでは音楽業界が急速に疲弊し、レコード会社は潰れてしまう。レコード会社の今後に道を示すものが、音源のリリースや公演、マーチャンダイジングまでアーティストの活動を全方位的にコントロールする360度ディールだ。例えば制作を例にあげても、テクノロジーの発展により、レコードスタジオでのレコード制作やパッケージの販売という昔のやり方から、ホームレコーディングが可能になり、アーティストの活動はよりコンパクトで個人的なものになった。これからのレコード会社がすべきことは、宣伝になる。

EMIとの契約が切れたレディオヘッドは、昨年、購入者が値段を決める独自のネット販売をした。この手法は、楽曲のすばらしさだけでなくレディオヘッドの知名度、これまでのEMIの宣伝の成果によるものが大きい。無名の新人バンドでは成し得ないものだ。また、マドンナがワーナーの次に契約したのが、ライブネイションというライブやコンサート興行、マーチャンダイジングを行う会社だったことも話題となった。

これからの音楽産業は新しいシステムを必要としている。国際レコード産業連盟(IFPI)による世界の音楽販売統計を見ても、海賊版の横行する中国の数字は信憑性が乏しく、ブロードバンドの発展が進んでいる韓国もまたレコード会社が利益を得ることが難しく、ビジネスモデルの変換が必要である。中国のディープリンキングサイト「Baidu」や「ソウフウ」などによる被害と法的措置の攻防も、もぐらたたき状態だ。現在広まっているような音楽の音楽としての販売をあきらめた、タイアップによる音楽販売(CMやドラマのBGMとして音楽が売られること)はアーティストにとって必ずしも良いものではない。アーティストの名前を覚える間もなく過ぎ去ってしまう。

Billboardホームページ [JP] http://www.billboard-japan.com/
Billboard.com http://www.billboard.com/bbcom/

質疑応答

Q.今後レコード会社は、音楽を生産する側として広告以外に何をしなければならないか。
A.Wired誌に掲載されたデヴィッド・バーン(トーキング・ヘッズ)の記事によれば、アーティストの収入はこれまでのビジネスモデルであるレコード会社に原版(権)を売ることで得るCDのパッケージ販売による利益から、楽曲の著作などの権利による利益へと変化していくという。また、無料でダウンロードができてしまう中国では従来の音楽産業では経営が成り立たないため、その対策を行う必要がある。
Q.レディオヘッドのインターネット販売の結果はどうだったのか。
A.それは誰にも分からないことだが、実際に購入したのは40%だった。しかし、レコード会社を通さないため、その40%の売り上げはすべてレディオヘッドのものである。
Q.音楽産業にダメージを与えたP2Pなども、もともと音楽を好きな人が利便性を求めてファイル交換ソフトなどを利用したのだと思うが、今の状況を音楽好きはどう思っているのか。
A.音楽の宣伝のためには、インターネットはいいことである。全世界でISP保証金が支払われることになれば、印税として収入を得ることができ、音楽産業の強力な薬となる。しかし、どこまでのレベルでその保証金を支払うのかなど問題も解決しなければならない。
Q.音楽ダウンロードの普及によりシングルとして販売されるスタイルが定着した場合、アルバムが作られなくなってしまうのではないか。
A.CDはもちろんLPの時代、アルバムでの制作が定番であったが、さらにその前はシングルで制作されていた。これからは、またシングルが主流となるだろう。しかし、ヒットすれば、シングルがアルバムの販売を上回ることもあるし、i-podの普及によりアルバムの曲も自分の選曲順で聞くことは定着しているので、憂慮することではないだろう。音楽産業は、昔のビジネスモデルのままでは苦しい状況だが、無くなりはしない。
Q.これまでの講義で紹介されたSNSなど以外に、インターネットができたことで音楽にとっていい面はどんなことがあるか。
A.テレビ、新聞、雑誌、レコード店などに限らず、モバイル(携帯、PC)などによりメディアの意味が広くなり、広告のチャンスも広がった。これから、さらにいい音楽宣伝のメディアが増えるだろう。