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トップページ設置講座クリエイティブ産業研究講義記録08.05.08 講義記録

クリエイティブ産業研究―音楽コンテンツを中心に― (社団法人日本レコード協会寄附講座)

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クリエイティブ産業研究:講義記録

5.8 日本の知財戦略(コンテンツの振興) 一山 直子(内閣官房知的財産戦略推進事務局 参事官補佐)

知的財産戦略推進事務局について

縦割りに捕らわれない権利の運用を総合的に進めるため、総理大臣を本部長に、内閣に設置された機関(http://www.ipr.go.jp/ )。法律の改正など基本的な制度改革、産学官の協力体制の充実(各大学に知的財産本部が設置されるなど)、海外の海賊版対策、知的財産高等裁判所の設置、各省庁との調整などを行っている。2003年より「知的財産推進計画」を発行(ホームページより入手可能)。

日本の1990年代の経済の低迷や、アジア諸国の台頭による国際競争力の低下、技術革新の重要性の高まりを背景に、物やサービスに加え、科学技術力や創造力など価値ある知恵を財源に国際競争力を強化し、未来を拓く知的財産戦略を国家戦略として推進。

少子高齢化により消費と生産が減少する日本の社会において、ものづくりを中心として高度成長を遂げたこれまでの社会から、知恵を使って少ない労働力でたくさんの価値を生み出せる社会に変え、知的所有権を経済の核とする社会(知財立国)の創造を目指す。

知的財産権について

知的財産権の中には産業財産権、著作権、回路配置利用権、育成者権、不正競争防止法や商法など、さまざまな種類の権利がある。このうち産業財産権の中に特許権や実用新案権、意匠権、商標権が含まれ、産業の振興に必要な権利として保護されている。本講義で取り上げるコンテンツ振興は主に著作権に関わる。大きな違いは、産業財産権は登録をすることでその権利が守られるが、著作権は創作されたときに発生する登録不要の権利であるということ。各管轄は、産業財産権は特許庁(経済産業省)、著作権は文化庁(文部科学省)が行っている。

創作者の保護を目的とした著作権は、これまで文化政策としての色合いが強く、権利が保護される期間が長い。そのため現在のように産業振興に利用する場合、権利者が不明になるなどの弊害があり、改善が必要とされている。

コンテンツ振興の必要性

世界で評価の高まる日本のアニメ、漫画、食文化などを産業政策として活用すべきという潮流と、インターネットを通じて簡単に表現ができるようになった1億総クリエーター時代の到来を背景に、文化の振興と産業の発展の両方を兼ねた政策として推進されている。

コンテンツ分野の現状と課題から

コンテンツ産業の経済規模は13.9兆円と大きい(参考/自動車20.8兆円)。政府は今後10年間でさらに5兆円の拡大を目指している。

日本のコンテンツは海外で人気があるにもかかわらず、経済の延びはそれ程得られていないのが現状。さらに、各市場をみても、欧米では音楽は10%単位で減少、日本国内においては10年間でテレビ局などの広告収入は5%減、出版は25%減となるなど、主に旧メディアの分野で縮小している。それに対し、インターネットによる音楽配信など、新たな市場が拡大。今後この新分野の発達に期待がもたれているが、海外資本の先行や海賊版などの違法対策など新しいビジネスモデルと対策が求められている。この旧分野から新分野への速やかなシフトチャンジが日本の国際力強化の鍵となる。海外資本の企業の需要者となっているだけでは日本の経済は縮小してしまい国際競争力の拡大には至らない。新しいビジネスモデルが必要。

フランスでは毎年ジャパンエキスポが開催され、日常的にアニメが放送されている。世界で日本のコンテンツが需要されているにもかかわらず、現在の日本においては未だ国内マーケットへの比重が高く、海外展開は消極的だ。より高いGDPを得るためには世界の市場に対し、より強く日本のポップカルチャー(ジャパン・クール)を打ち出し、利益へとつなげる必要がある。

では、コンテンツで利益を上げる方法、具体的なビジネスチャンスを考えてみると、携帯小説のヒットを出発点にその後、出版、テレビドラマ化、映画化、ビデオ化などへ展開された「恋空」を例にみても、出版には出版権が、テレビ・映画化には脚本を書くにあたり翻訳権が発生するなど、メディアミックスにより、ひとつのコンテンツがマルチユースされるとさまざまなビジネスの可能性が展開する。メディアミックスの代表例が「ポケモン」。キラーコンテンツと呼ばれる。

ただし、日本の放送分野においてはマルチユースを困難にする問題があり、2次利用が難しく、このビジネスモデルを簡単には当てはめることができない。そのため、映像コンテンツ産業の中で、1次流通市場では大半を占めるテレビ番組が、マルチユースの市場ではほとんど流通していない。その原因は、権利者が多く、権利処理のコストや手間がかかることや、ワンチャンス主義、広告収入から利益を得る放送局と放送局から収入を得ている番組制作会社の関係などがあげられる。しかしながら、たとえば露出コントロールをしたい出演者の立場など、コンテンツ流通の促進が必ずしも利益とならない可能性もあり複雑な問題である。この流れを円滑にし、新しい市場の拡大を図る制度を手当てするのが、知的財産戦略推進事務局の役割。

具体的な施策

新たな市場を開拓し、その利益を創作に還元し、さらに優れたコンテンツを生み出すスパイラルを実現するため、新しい市場を拡大→流通を円滑化→創造を拡大するための基本戦略と実践または考え得る施策について。

○新しい市場の拡大 

基本戦略1)既存の枠組みにとらわれない新しいビジネスに挑戦する。

  • コンテンツ共有サ-ビスの適法化
    個人の創作物や多種多様なコンテンツを閲覧できるサービスとして利用者が急増し、宣伝や視聴者獲得のための新たな手段として商業的な利用が増加した現在、利用を抑止するのではなく、正しい利用を促進するため、サービス事業者と権利者の包括的な契約や、フィルタリングなどにより違法コンテンツを排除し適法利用するための許諾の効率化、サービス事業者の法的責任の明確化などを検討。
  • 通信と放送の垣根を越えた新しいサービスへの対応
    利用者からの視点で、サービスの形態に応じ、権利規定の見直しや著作隣接権のあり方を検討。

基本戦略2)海外に目を向け、グローバルにビジネスを展開する。

  • 海外を意識した見本市や映画祭の実施
    英語など多言語化を推進。たとえば翻訳費用を国が負担するなど。
  • 官民挙げた海賊版対策の推進
    CJマーク(コンテンツ海外流通マーク)の普及や、模倣品・海賊版拡散防止条約(仮称)の早期実現、在外公館における海賊版対策の強化など、正規のビジネスに転換する取り組み。
○流通の円滑化

基本戦略3)多様なメディアに対応したコンテンツの流通を促進する。

  • コンテンツの二次利用を円滑に行うためのルールづくりなど、流通を促進する制度等の整備
  • 図書館のデジタル化の推進
○創造の拡大

基本戦略4)世界中のクリエーターの目標となりうる創作環境を整備する。

  • 日本の優れた科学技術力を生かしたコンテンツ創造の充実
  • 一億総クリエーター時代に対応した創作活動の支援
  • 権利処理等の負担の軽減や、適法な公表の支援

質疑応答

Q.補助金ではなく政府が主導することはないのか?
A.民間の優れたプロデュース能力の支える方が有効なため、補助金などで支援している。
Q.創造することへの支援策は?
A.文化庁は、『靖国』など映画製作を支援しているほか、クリエーターの海外渡航支援などを以前から行っている。しかし、実際にキラーコンテンツが生まれるのは民間の中からのことが多いこともあり、知的財産戦略推進事務局の現在の戦略の中では薄い部分であるが、創造的な人材育成のための基盤整備は政府として行っている。
Q.旧メディアから新メディアへの移行に関し、特に雇用などに対しての政策をとっているか?
A.雇用に関しては知的財産戦略推進事務局としては特に行っていない。
Q.新メディアへの移行に関し、旧メディアへの配慮は行っているか?
A.旧メディアを守る制度はないが、旧メディア世界のルールが新メディアの参入障壁となっているので、競争条件を等しくするなどして双方をフラット化できるような政策を行っている。
配布資料
レジュメ1枚