クリエイティブ産業研究:講義記録
4.10 クリエイティブ産業とその範囲 慶應義塾大学アートセンター 副所長 美山良夫
(社)日本レコード協会は、日本の主要なレコード業界各社により、公益に資することを目的として設立された団体であり、業界の統括的な存在としてレコード(CD)生産の統計、文化庁とともに歴史的な音源のデジタル化、権利を守るための啓蒙や関連知識の周知など、音楽文化・産業の発展のために寄与する活動を行っている。
(社)日本レコード協会は、すでに早稲田大学において寄附講座をおこなっているほか、本年度より立教大学でも講座をひらく。本年度も各界の第一線で活躍するゲスト講師を招聘し、コンテンツ産業の概要、著作権などの法的な問題、日本のクリエイティブ産業の現状と未来について講義を行う。
講座のタイトルとなっている「クリエイティブ産業」という言葉は、十数年前から使われている。昨今、多用されるこの「クリエイティブ産業」という言葉はどういったところで使われてきたか。
今日、「クリエイティブ」という言葉は、文化芸術の創造だけでなく「クリエイティブ・シティ」、「クリエイティブ・クラス」、「クリエイティブ・エコノミー」など多様に使われている。経済学者、社会学者などの間で今、閉塞感のある社会や時代を打ち破るのはクリエイティヴィティにあると考えられている。リチャード・フロリダが著書『クリエイティブ・クラス』の中で語っているのは、これからの豊かさを支えていくのはクリエイティヴィティであり、また、その温床としての寛容さであるという。新しいものに対して寛容な社会、新規なものの参入障壁が少ない都市ほどクリエイティビティが発揮しやすく、文化芸術が発展し、そういった都市には優れた大学があるという。
もはや経済的な成長だけが自明の善ではない。仕事に対して求める報酬を、金銭的価値だけでなく、やりがいや社会的意義など内発的な要因に求める傾向は、価値観の変化を表わしている。さらに、経済的なものや必要な消費だけでなく、新しい価値を生み出す先導的な役割をもつ芸術などが、新たに必要な価値として求められてきている。
ブレア政権は自国の産業のあり方を更新し、新しいくくりとしてクリエイティヴィティに関連した産業を「文化メディアスポーツ省(Department for Culture Media and Sport 詳しくは英国政府のホームページを参照)」のもとに統括し、クリエイティブ・インダストリーを推奨している。クリエイティブ産業を国内だけでなく、世界のマーケットをめざして発信している。また関連産業、大学機関などを文化広報機関のブリティッシュカウンシルを介して紹介している。
人々が求める美学的、審美的な欲求が大きくなる中で、クリエイティブ・インダストリーは成熟した社会経済の中の残された成長領域であり、現在、産業全体の中で占める規模は小さいが、今後においては大きな可能性を含んでいる。
イギリスに限らず世界においても、クリエイティブ・シティ、クリエイティブ・エコノミーという考え方が広がる中で、韓国などクリエイティブ産業に着目し舵をきった国々がある。日本においては、アニメや映画などの日本のコンテンツを、日本の知的財産として発展、充実させる目的で「知的財産戦略本部」を設立している。そこで議論、検討されているさまざまな問題は、日本のコンテンツ産業の問題点や現状として今後の授業で各方面の講師から聞くことができる。
日本はアメリカや韓国などに比べてコンテンツ産業の規模が小さく、その他、予算の規模や獲得の難しさ、人材育成機関の存在が限られていることなど、多様な問題事例からその対応が必要とされている。たとえ同じ問題に対しても立場の違いで視点が異なり、現在進行形で進む問題は今後も変化していくことになるということに注視して学んで欲しい。
- 配布資料
- 日本レコード協会事業概要(1冊)
- 日本レコード協会会員名簿(1枚)
- レコード協会のプレスリリースとシラバス(A3、1枚)