「誕生」1970年、大阪万国博覧会の展示パビリオン「みどり館」では、アストロラマと名付けられた全天全周映画として「誕生」が上映された。 みどり館に装置されたドームスクリーンは、当時としても、そして今日においても世界最大(直径30メートル)で、70ミリフィルムに対応した投影機(5台を設置)や超立体音響設備(515個のスピーカー)もアストロラマのために新たに開発されるなど、画期的な上映環境が構築されていた。 上映された映画「誕生」は、カオスから天と地が生まれ、人類が出現し、全世界的な調和を夢みる現在までを映像で表現するというコンセプトをもって、世界各地で撮影された映像により構成された。 映像は、黛敏郎の監修のもと、学習研究社が制作、脚本を谷川俊太郎、音楽を黛敏郎がそれぞれ担当し、土方巽が唯一、出演者名をもってフィーチャーされている。 アストロラマとしてドームで上映するために、世界最大の撮影用レンズを備えた5台のカメラが一体化された撮影機が開発され、70ミリフィルムで撮影が行われた。 土方巽の出演シーンは、北海道の硫黄山で撮影され、土方が人類の誕生を告げる呪術師として、噴煙をあげる山肌を駆け踊る姿が映し出されている。 |
「誕生」の調査とフィルム探索万博終了後、上映施設としてのドームをはじめ、システムすべてが消却されたために、「誕生」は二度と上映されることなく、幻の映像となっていた。 土方巽アーカイヴでは、アスベスト館から継承した「誕生」に関する諸資料をもとに調査を進め、「誕生」の全貌を求めて、原フィルムの探索を開始した。 演出を担当された学研映画の秋山智弘氏より寄贈されていた北海道ロケの写真や35ミリのラッシュフィルム(一部)を精査し、アストロラマのシステムや機材を開発した五藤光学研究所から貴重な資料の提供を受けるとともに、有用な証言やアドバイスをいただいた。 さらに、日本万国博覧会記念機構での資料調査を経て、みどり館の運営主体であったみどり会での調査を実施へと進んでいる。 プロジェクトは、幻の万博映画「誕生」の全容解明に一歩、一歩近づいている。 |
企画:慶應義塾大学アート・センター
調査:慶應義塾大学アート・センター 土方巽アーカイヴ、慶應義塾大学DMC研究センター ポートフォリオBUTOH
協力:慶應義塾大学DMC研究センター、NPO法人舞踏創造資源、株式会社五藤光学研究所
特別協力:株式会社みどり会
助成:独立行政法人国際交流基金、独立行政法人日本万国博覧会記念機構