慶應義塾大学アート・センター Keio University Art Center

下田治《The Wing of Minerva(ミネルバの翼)》調査・洗浄作業 その2

本作品は、山種総合研究所代表取締役会長・山崎誠三氏の寄贈により、1996年に湘南藤沢キャンパスに設置された。作者は立教大学を卒業後、パリのアカデミー・グラン・ショーミエールで絵画を学んだ後、1958年に渡米し、1960年代後半から彫刻制作へ転向。鉄を主要素材とした幾何学的なフォルムによる抽象彫刻を制作した。1997年には≪かみつくめす犬≫で第28回中原悌二郎賞を受賞。

2020 年 2 月に湘南藤沢キャンパスに設置された屋外彫刻の保守作業を行った。このとき本作品は作業対象ではなかったが、作品に変形が生じているのを見て、短時間の調
査を奉仕で実施した。5 月に提出した報告書に調査結果の概要を記した。また同年 7 月、慶應義塾大学理工学部で分析化学、材料力学、構造解析を専門としている研究者の協力を得た調査の必要性を提案した。この後、作品の安全性(地震時の衝撃における加速度と台風時の風荷重への耐力不足)を配慮して、人が近寄らないよ
う周囲に結界が設けられた。2023 年 3 月 7 日、作品の安全性を検討するための基本となる知見を得ることを目的とした作業が、ローリングタワーを架設して行われた。作品の 3D 測定(ミュージアム・コモンズの宮北剛己氏が担当)、及び作品を構成するピースの識別を行った。 また板材縁の歪み測定、 板材の肉厚測定、締結材の磁性検査、高圧洗浄機を用いた洗浄、合金構成元素を定量するための金属試料採取を実施した。この作業結果をもとに 5 月 10 日にミュージアム・コモンズで調査結果報告が行われた。これらには理工学部機械工学科の大宮正毅教授も視察・参加した。

*調査・作業期日
*記録者 黒川弘毅

2024 年 1 月 15 日
有限会社ブロンズスタジオ保存修復室
作業者 黒川弘毅、伊藤一洋、亀島悠平



●作業の基本方針

作品の変形が継続している(作品の危険性が増大している)か、停止している(変形した状態で安定している-安全性とは異なる)かを判断するため、ピースの変形量、基準となる定位置の地上高及び台石上面に設けた定点と間隔を定期的に観察するための測定個所を決定し、それらを測定する。測定個所は脚立で簡単に作業ができる位置を選ぶ。

●作業内容

1.歪み測定個所の決定と歪み測定

2023 年 3 月にピース⑦の歪み測定を行ったが、今回もこれを実施し、この部位に限定して測定位置を設けた。このピースは今後の変形が進行する可能性が低いと思われるが、異常が起きた場合は作品の倒壊に直結するエレメントである。前回の数値との差は測定誤差と思われる。また日照を受けた金属の熱歪みによる弾性変形(永久歪みとは異なる)を考慮する必要があるだろう。

1 ピース⑦北上縁 45.5mm (前回 45.5mm)
2 ピース⑦西上縁 9.5mm (前回 10.5mm)
3a ピース⑦東縁下部 7mm (前回 6mm)
3b ピース⑦東縁上部 10.5mm (前回 10.5mm)

2.地上高測定位置の決定と地上高測定

A ピース④東南 台石上に測定点を彫りつけた。 1459mm
B ピース③西 台石北側芝生中に測定点のクイを打った。3265mm
C ピース②北 台石北側芝生中に測定点のクイを打った。3115mm

3.台石上面定点位置の決定と間隔測定

地上高測定位置 ABC から間隔測定が可能な定点の位置を台石上に設けた。

A ピース④東南 1872mm
B ピース③西 3705mm
C ピース②北 4180mm

図1 東側 ピース番号 測定位置 A と間隔測定点
図2 西側 ピース番号 測定位置 B
図3 東北側 ピース番号 測定位置 C
図4 A, B, C, 間隔測定点 南台石北東寄り
図5 B ③西 間隔想定 3705mm

Date

2024年1月15日


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