慶應義塾大学アート・センター Keio University Art Center

郡慧子《月あかり》修復

本作品は幼稚舎所蔵作品である。作品の裏には、 「昭和四十七年九月十八日寄贈 『仔馬』表紙のために」とあり、続けて、一陽会会員、住所、作者名が書かれている。また、添付されているラベルには「第 21 巻 昭和 44 年 郡慧子氏」と記載があることから、作者の郡慧子(1930-2017)により、幼稚舎の発行する雑誌『仔馬』の表紙絵として幼稚舎に寄贈されたことがわかる。黴、顔料の剥落等が見られたため、修復研究所二十一に保存修復処置を依頼し、あわせて額縁を新調した。



●作品
作者:郡慧子
作品名:月あかり
制作年: [1969 年]
材質:油彩・カンヴァス
寸法:53.3 × 45.6cm

修復記録
2024 年 5 月 1 日
有限会社修復研究所二十一
所長 渡邉郁夫 担当者 宮﨑安章

[処置前の状態]

ワニス層:なし。
絵具層:赤色の絵具に亀裂や浮き上がり、剥落が多くある。描画時の溶き油(乾性油)の混合量が少ないため、固着状態が脆弱になったと考える。右辺の下に黴が発生した痕がある。
支持体:市販の画用キャンバスである。繊維は亜麻。黒色で裏書きがある。裏面は、作者名など書かれた紙がラミネート加工され、直接画布に接着されている。
木枠:員数 5 本(中桟 1 本)市販の画用木枠。杉材。楔穴、楔はない。
額縁:2 重構造でガラスが入っている。内側の枠には紺色のベルベットが貼られている。裏蓋はなく、内額はラワン合板である。吊り金具は真鍮製のヒートンで吊り紐は亜麻紐が使われている。

[修復処置内容]
1.修復前、中、後をデジタルカメラで撮影した。
2.修復前の作品の状態を調査した。
3.膠水を浮き上がった箇所に注入し、電気ゴテで加温加圧して接着を行った。
4.脱脂綿を巻いて作った綿棒に希アンモニア水をしみ込ませて拭き取り除去した。
5.掃除機を使い裏面の清掃を行った。エタノールで殺菌処置を行った。
6.炭酸カルシウムと強化ワックスを練り合わせた充填剤を詰め、周囲の絵肌に合わせて整形した。
7.チアベンザゾールを主成分とした防黴剤を塗布した。
8.溶剤型アクリル樹脂絵具を使って補彩を行った。
9.ダンマル樹脂ワニスを塗布した。
10.額縁は新調し、厚さ 3mm の UV カットアクリル板と裏蓋はポリカーボネイト板も新調した。

図1. 修復前 額付き 表 
図2. 修復前 額付き 裏
図3. 修復後 額付き 表 
図4. 修復後 額付き 裏

Date

2024 年 5 月 1 日


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