慶應義塾大学アート・センター Keio University Art Center

飯田善國《星への信号》状態調査

本学では 2001 年度より三田キャンパスの屋外彫刻洗浄保存処置を専門家に依頼して実施し、その後各キャンパスと一貫教育校に設置されている屋外彫刻作品についても処置を進めてきた。現在では二年に一度の頻度で洗浄および保存処置を行っている。本年度は三田キャンパス 5 点、幼稚舎 2 点、中等部 3 点、 湘南藤沢キャンパス 1 点、 矢上キャンパス 1 点、日吉キャンパス 3 点、普通部 1 点、志木高等学校 2 点計 18点の洗浄保存処置を行った。上記作品に加え、三田キャンパ
スの飯田善國《星への信号》の状態調査、志木高等学校の大熊氏廣《福澤諭吉座像》の清掃を行った。

保存観察記録
2024 年 5 月 5 日
*作業期間 2023 年 11 月 9 日
2024 年 1 月 11 日~ 1 月 17 日
*記録者 黒川弘毅

有限会社ブロンズスタジオ 保存修復室
*作業者 黒川弘毅、伊藤一洋、亀島悠平、宮本颯

 



●作品

作者:飯田善國
作品:星への信号
材質:ステンレス
制作年:1984 年
寸法:610.0 × 55.0 × 55.0cm

●作品の状態

二つの垂直回転ブレード(A と B)及びこれらが固定された支柱上部の水平回転筒は、手で動かすことはできるがスムースに回転せず、風ではほとんど動かなくなっている。ブレードの支軸貫通孔からはいずれにも鉄さびの流れ出しがみられる。ブレード B には支軸貫通孔下側に内部のベアリングの腐食を推測される鉄さびの激しい沈着が生じている。手で回転させるとベアリングの損壊を予想させるような抵抗が感じられ、偏りがみられる。水平回転筒と支柱上部の隙間からは鉄さびの流れ出しがみ
られ、内部の支軸に顕著な発錆がみられる。回転筒に設けられた六角穴付きボルトには層状さびの形成がみられる。

●作業の基本方針

潤滑剤を注入し、回転におけるスムースな動きの復元を試みる。

●作業内容

ブレードの支軸貫通孔、及び水平回転筒と支柱の隙間から、内部のベアリングに向けて細い管のついたスプレー式潤滑剤を注入した。注入後に垂直回転ブレードと水平回転筒を動かして挙動を観察した。ステンレス表面の潤滑剤の流れ跡を溶剤でよく拭き取りクリーニングした。

●作業結果

垂直回転ブレードと水平回転筒の挙動に変化がなく、動きは向上しなかった。

●保存上の留意事項

作品は 1984 年に設置されて以後、40 年が経過している。この間にベアリングの保守は行われていないと推定される。ブレードと回転筒を取り外し、内部のベアリングを交換する必要があるだろう。また西側の樹木はブレードの可動域に干渉している可能性があり、剪定を必要とするかもしれない。

図1《星への信号》作業風景
図2《星への信号》水平回転筒の六角穴付きボルト発錆状態
図3 ブレードA 支軸側 支軸貫通孔
図4 潤滑剤クリーニング

Date

2024 年 1 月 11 日


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