山名常人《福澤諭吉胸像》の着色調整・保存処置
湘南藤沢キャンパスのメディア・センターと研究・教室棟の間の芝生の広場に設置されている本作品は、日吉キャンパスのメディア・センター前に設置されている福澤像と同じ原型から制作されている。銘板によれば、日吉の福澤像同様に、商工学校同窓会を中心に工業学校同窓会、中等部特別第 1 回第 2 回卒業生によって寄贈されたという。作者山名常人は、東京高等工芸学校(現千葉大学工学部)彫刻部の出身で、新構造社所属の彫刻家。仏師でもあり、数多くの仏像も制作している。
本作品は湘南藤沢キャンパス開設設置後、洗浄保存処置が施されたことがなく、屋外設置のため条痕が激しく、胸像としての姿が問題のある状態になっていたため、急遽着色調整と保存処置を施すこととした。
[文献]『慶應義塾史事典』慶應義塾、2008 年、589-590 頁
保存修復作業記録
2011 年 1 月 5 日 ブロンズスタジオ/作業者:黒川弘毅、江見高志
作品
- 作者=山名 常人
- 作品名=福澤諭吉胸像
- 制作年= 1985 年
- 材質・技法=ブロンズ
- 寸法=高さ約 1.2m
- 署名等=作品背面「一九八五 常人作」平成三年 商工学校同窓会、工業学校同窓会、中等部特別第1 回第 2 回卒業生 寄贈
【処置前の状態】
・当初は暗緑色であったと推定されるが、全体的に着色の喪失が進行している。
・上向き水平面-斜面(暴露エリア)は、淡青色をした自然の錆がみられる。
・垂直面は、降水の流水路に着色層劣化物の堆積と発錆がみられ、条痕が形成されている。
・像の色調は、淡青色が顕著となって白んだ印象を受ける
【作業の基本方針】
・表面に保護剤を塗布して保存処置を施す。保護剤には蜜蝋を用いる。
・ワックスを加熱塗布して明度を低下させ、像の色調を補整する。
・経年を感じさせる古び感をできるだけ損なわないよう色調を調整する。
【作業内容】
1.洗浄作業 陰イオン系洗剤を用いて洗浄した。 使用材料 陰イオン系洗剤溶液
2.着色補整・保護剤塗布作業潤色と乾色で像の発色を調査した。周囲の建物が白く、乾色では像の存在感が希薄であると判断された。
3.全体にワックスを塗布し、これを加熱しながら色調を調整した。使用材料 蜜蝋、リグロイン
4.光沢調整作業作品の輪郭にメリハリをつけるため、部分的にワックス表面を研磨して光沢を調整した。
【作業結果】
・条痕は目立たなくなり、明度が低下して落ち着いた色調となった。
・保護剤の塗布により、作品には潤いと艶が生じた。
・ワックスの塗布により、表面は良好な撥水性を得た。
写真は左から
写真1:修復前
写真2:修復後
Date
2010 年 12 月 3日
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