《松永安左ェ門胸像》の着色補整・保存処置・作品固定
本作品は、志木高等学校入り口に設置されている胸像である。1947 年、松永安左ェ門から東邦産業研究所の土地と建物の寄贈を受けた慶應義塾は、同年末獣医畜産専門学校を同地に移転させ、翌年新制の農業高等学校を開設した。後の 1957年に慶應義塾志木高等学校となる。記録台帳によれば、この胸像は 1944 年 1 月 4 日に財団法人東邦産業研究所から寄贈されたことになっているが、当時はまだ東邦産業研究所の敷地であり、昭和 19 年 1 月 4 日作となっていることから、1944年に現在の場所、あるいは少なくとも東邦産業研究所内に制作・設置され、後年に土地・建物が寄贈された時に一緒に寄贈されたと考えるのが自然である。また、胸像はブロンズ製であるが、制作されたとされる 1944 年は戦時下であり、ブロンズ像は供出対象となっていたことから、この時期にブロンズ像が制作設置されることは考えにくい。台帳には「コンクリート製」という記述が見られることから、1944 年にはコンクリート像として制作された胸像が戦後になって改めてブロンズ像として鋳造され、設置されたと想定することができる。[文献]『慶應義塾史事典』、慶應義塾、2008 年、355-356 頁、752-753 頁。
保存修復作業記録
2009 年 11 月 ブロンズスタジオ・黒川弘毅/作業者:黒川弘毅 他(ブロンズスタジオ)
作品
- 作品名=松永安左ェ門胸像
- 制作年=1944 年(但し原像の制作年、ブロンズ鋳造は後年と考えられる)
- 材質・技法=ブロンズ
- 寸法=高さ 75cm
【処置前の状態】
1.固定状態作品は台石(黒御影)に 2 本のアンカーボルトにより固定されていたが、台石と台座(万成石)はセメントを用いて接着されていた。2001 年 12 月 13 日と 2004 年 1 月11 日の調査では、固定状態に異常は認められなかったが、2009 年 3 月 4 日の作業時に台石と台座のセメントによる接合が有効ではないことが判明した。作品と台石の固定は貫通無しのアンカー穴へ横銅ボルトをセメントで固定していた。作品底部に設けられたブリッジは同合金製であり、Mネジではない規格のボルトが用いられていた。
2.ブロンズ像表面の状態は、7 年前の状態と比較して、上向き水平面―斜面(暴露エリア)は自然の錆が優勢になっている。垂直面は、降水の流水路に発錆が見られる。降水の影響を免れた部位は、設置当初からの黒色が残っている。腐食による金属の顕著な減衰は見られなかった。
【作業の基本方針】
1.作品固定
台石を貫通して台座に達するアンカーボルトを加工し、エポキシ樹脂を用いて作品を固定する。
2.ブロンズ像
ワックスの加熱塗布により像の色調を補整する。作品の経年を感じさせる古び感をできるだけ損なわずに色調を調整する。表面に保護剤を塗布して保存処置を施す。保存剤には蜜蝋を用いる。
【作業内容】
1.洗浄作業
非イオン系洗剤を用いて洗浄した。
使用材料:非イオン系洗剤溶液
2.着色補整作業・補語剤塗布
作業乾色と潤色での着色状態を確認後にブロンズを加熱してワックスを塗布し、色調を調整した。作品の輪郭にメリハリをつけるため、部分的にワックス表面を研磨して光沢を調整した。
使用材料:蜜蝋、リグロイン
3.台石・固定金具加工
アンカーボルトのために、台石に貫通穴を、台座にアンカー穴を加工した。作品のブリッジには、M12 のネジを切り直してボルト・ナットを加工した。
使用材料:黄銅製ボルト・ナット
4.台石・作品固定
台座上面にエポキシ樹脂を塗布し、台石を置いた後、台座アンカー穴 - 台石貫通穴にエポキシ樹脂を充填し、作品を固定した。
使用材料:ヒルティーエポキシ充填剤
【作業結果】
作品・台石は台座に固定された。保護剤の塗布により、作品には潤いと艶が生じた。ワックスの塗布により、表面は良好な撥水性を得た。
写真は左から
写真1:修復前
写真2:修復前
写真3:アンカーボルト加工
写真4:修復後
写真5:再設置後
Date
2009 年 3 月 4 日~ 2009 年 10 月 20 日
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