山名常人《福澤諭吉胸像》の着色調整・保存処置
日吉メディア・センターの前広場に設置されている本作品は、福澤諭吉生誕150年、商工学校創立80年である1985年に商工学校同窓会を中心に工業学校同窓会、中等部特別第1回第2回卒業生によって寄贈された。作者山名常人は、東京高等工芸学校(現千葉大学工学部)彫刻部の出身で、新構造社所属の彫刻家。仏師でもあり、数多くの仏像も制作している。湘南藤沢キャンパスの福澤像もこの彫像と同じ原型から制作されている。
本作品は設置後、洗浄保存処置が施されたことがなく、屋外設置のため条痕が激しく、胸像としての姿が問題のある状態になっていたため、急遽着色調整と保存処置を施すこととした。
[文献] 『三田評論』862号、慶應義塾、1985年9月、114-115頁・1121号、2009年3月/『慶應義塾史事典』、慶應義塾、2008年、589-590頁。
保存修復作業記録
2008年12月3日 ブロンズスタジオ・黒川弘毅/作業者:黒川弘毅、江見高志、伊藤一洋
作品
- 作者:山名常人
- 作品名:福澤諭吉胸像
- 材質・技法:ブロンズ
- 寸法:高さ約1.2m
- 記名:作品背面「一九八五 常人作」商工学校同窓会、工業学校同窓会、中等部特別第1回第2回卒業生 寄贈
【作業前の状態】
上向き水平―斜面(暴露エリア)は、淡青色をした自然の錆が優勢になっている。
垂直面は、降水の流水路に淡青い色の発錆が見られる。降水の影響を免れた部位は、設置当初からの暗褐色が残っている。下瞼、耳の中央は着色が堅牢に維持されているため、色を塗られたように見える。
【作業の基本方針】
・化学的着色法により像の色調を補整する。
・発錆部は、錆の表面に硫化銅を形成して暗色に転換し、着色残留部とのコントラストをなくして着色の調和を図る。
・作品の経年を感じさせる古び感をできるだけ損なわずに色調を調整するため、条痕は遠目に目立たない程度に補整するにとどめる。
・表面に保護剤を塗布して保存処置を施す。保護剤には蜜蝋を用いる。
【作業内容】
1.洗浄作業
非イオン系洗剤を用いて洗浄した(使用材料=非イオン系洗剤溶液)。
2.着色補整作業
硫化化合物を用いて白味の強い錆の個所を暗緑色に転換した。加熱によって反応を調整した(使用材料=硫化カリウム溶液)。
3.保護材塗布作業
ワックスを塗布した(使用材料=蜜蝋、リグロイン)。
4.光沢調整作業
作品の輪郭にメリハリをつけるため、部分的にワックス表面を研磨して光沢を調整した。
【作業結果】
・発錆個所が補整されて条痕は目立たなくなり、色調が改善された。
・保護材の塗布により、作品には潤いと艶が生じた。
・ワックスの塗布により、表面は良好な撥水性を得た。
写真は左から
写真1:修復前
写真2:修復後
Date
2008年10月29日
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