慶應義塾大学アート・センター　Keio University Art Center

2021年3月21日、明治大学唐十郎アーカイヴと慶応義塾大学アート・センターの共催シンポジウム「映像と演劇アーカイヴ」がzoomにて行われた。明治大学唐十郎アーカイヴの樋口良澄氏が、状況劇場を記録したVICのビデオテープ映像を調査するため慶応義塾大学アート・センター・アーカイヴへ来室されたことがこのシンポジウムへいたる一つのきっかけとなった。その時に樋口氏と共有した問題は次のようなものだった。演劇などの公演それ自体は終わってしまえば存在しないため、記録によってしかアプローチできないこと。演劇などパフォーマンスの記録として動画がとても重要であること。一回性が問われるパフォーマンスの中でも特に、状況劇場は仮設テントを劇場空間とするため、建築すら記録の中にしか残らないという特殊性があること。演劇のアーカイヴはどのようなものであるべきかなどである。状況劇場のVIC記録映像を通して、これらの問題を考えられないだろうかと樋口氏からの提案があり、このシンポジウムが実現した。アート・センターが所管するビデオの記録映像について再考するまたとない機会となった。［久保 記］

・シンポジウム第I部
https://youtu.be/uaVLnvrbwVo
・シンポジウム第II部
https://www.youtube.com/watch?v=LrOmy0conSY
・明治大学ホームページ
https://www.meiji.ac.jp/bungaku/info/2021/6t5h7p00003cu5do.html?channel=main

本映像は、2021年3月21日にzoomで行われたシンポジウム「映像と演劇アーカイヴ」を編集した記録である。本来は明治大学にて公開で行われるはずだったが、新型コロナウイルス蔓延の影響で、映像配信となった。上演芸術の記録資料が、文字や写真からデジタル映像へと変化しつつある現在の課題を議論すべく企画されたが、原理的な問題群にとどまらず、コロナ下の映像記録制作や配信など、喫緊の問題も議論された。参加者は、事務所や稽古場といった、自らの活動現場から発言している。

第Ⅰ部「映像記録の歴史性と現在性」では、映像記録の嚆矢であるVIC記録映像の1970年代からの歴史を確認し、現在のデジタル映像による記録との差異を考察する。唐十郎の演劇は、テント興行や類まれな戯曲により、出来事性、幻想性、過程性を孕んでいる。それらは程度の差はあれ、現代の演劇、ダンス、アートに共通したものであり、映像記録制作には現場に即した多様な試みが必要であることが議論された。

第Ⅱ部「コロナ下の映像とアーカイヴィングの行方」では、映像記録の議論をコロナ下での上演、興行、教育、研究へと展開し、その活用と受容が論じられる。VIC、唐組、慶應大学アート・センター、明治大学演劇学専攻での映像記録の制作や活用の具体例が報告され、デジタル技術の問題点も指摘された。演劇アーカイヴの今後には、創造の現場と記録を往還し、映像を含めた多様なアーカイヴの構築と、それを更新し続ける運動体としての活動を持続することが求められた。［樋口 記］

写真：
・1982年6月3日に花園神社にて状況劇場がテントを設置しているところ（VICの記録映像「VIC_0850_状況劇場テント設置 820603 花園神社」の静止画）。
・唐十郎（明治大学唐十郎アーカイヴ提供）